アルザスのワインのような、豊かな酸の白。
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鹿取みゆき・選&文  尾鷲陽介・写真

アルザスのワインのような、豊かな酸の白。

フクイハラ・ブラン ドメーヌ長谷

福井原という土地に惚れ込んだつくり手がつくったワイン。それが今回ご紹介する、「フクイハラ・ブラン」です。「初めてここを訪れたとき、荒れ果てた斜面にブドウ畑が広がる光景がぱあっと浮かんで、『絶対にここでやる!』と決心しました。そしてこの村に移住してきました」と語るのは、つくり手の長谷光浩さん。いまから5年前、長谷さんは、自分がつくりたいと思うワインに適した土地を探していたのです。

福井原は、長野県北部、県を南北に流れる千曲川の右岸に位置する高山村にあります。この村の畑は、扇の形をした扇状地に拓かれていることが多いのですが、福井原はその扇型の先端部分にあたり、標高は790~850m。日本のブドウ園の中でも、気候は冷涼な部類に入ります。

そんな長谷さんが、当時もいまもイメージしているのは「仮想アルザスワイン」。フランスでも冷涼な産地として知られるアルザス地方のワインような、豊かな酸が特徴のエレガントなスタイルです。しかも、一枚の畑に何種類ものブドウ品種を植えて、それを同時に収穫し、一緒に混ぜて発酵させる「フィールド・ブレンド」のつくりをベースに据えています。実は、このように複数の品種を混ぜて栽培(混植)し、混ぜて発酵(混醸)させるワインは、世界でも徐々に増えています。このつくりに取り組む多くのつくり手は、混植によってブドウは病気にもかかりにくくなり、ひいては化学農薬を減らす、あるいは使わない可能性が高まるといいます。また、長谷さんは、それこそが土地に敬意を払うことに繋がると信じています。「一枚の畑の中で、微生物などの生き物たちと共生しながら育つさまざまなブドウでワインをつくることが、福井原の土地の力を反映し、素晴らしい風景と同じように心に響くワインになると考えています」と長谷さん。

そして、そのワイン。ひと口含むと、白桃、柑橘とさまざまな風味が次々と魅了してくれます。けれど、全体としては味わいにまとまりがあり、やわらかく身体に沁み入ります。背後には酸が控えていて、通奏低音のように味を引き締めてくれます。長谷さんの思いが、ワインとなって伝わってくるようです。

「フクイハラ・ブラン」は、ブドウの成長やその年の気候によって、味わいも変化するでしょう。とはいえ、長谷さんが大切にしているのはテーブルワインとしての「フィールド・ブレンド」によるつくりだそうです。ただし、ピノ・ノワールなど単独でも真価を発揮することができる品種は、単一品種だが複数のクローンでのワインをつくることもあるようです。来春には「フクイハラ・ルージュ」が発売予定です。

設立は2017年。28歳でフランスのワインに衝撃を受け、35歳でワインづくりを決心した長谷光浩さんは、アルカンヴィーニュというつくり手を育てる学校で学び、ワイナリー設立に漕ぎ着きました。現在栽培している品種は、ピノ・ノワール、シャルドネ、ピノグリ、リースリング、ピノブラン、マスカットベーリーA、ゲヴュルツトラミネールなど、なんと20種類。ピノ・ノワール、シャルドネ、ピノグリ、ピノブランは、いい畑や区画があればさらにクローンも混ぜて増やしていくそうです。

自社畑面積/6ha
醸造家名/長谷光浩
品種と産地/シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、リースリング、ゲヴュルツトラミネール、シュナン・ブラン、シラー。高山村福井原産(長野県上高井郡高山村大字牧福井原)
容量/750ml
価格/¥2,106
つくり/野生酵母で1カ月半発酵。今回は、買いブドウのシャルドネ(3週間醗酵しなかったキュベ)と6品種混醸キュベ(スキンコンタクト実施)を発酵の途中で加え、発酵継続。総亜硫酸塩は30ppm。貴腐フドウが混じっていたため、リスク回避に破砕時に亜硫酸20ppm投入。無濾過無清澄。瓶詰め時に亜硫酸は無添加。
※買いブドウのシャルドネ65%は慣行農法、残りの35%は休眠期に石灰硫黄合剤とボルドー5回散布のみ。無施肥、不耕起草生栽培。
問い合わせ先/ドメーヌ長谷
www.facebook.com/domainehase

※ 「ワインは、自然派。」について
本連載では、ブドウの栽培からワインの醸造まで、できるだけ自然につくられた自然派ワインやナチュラルワインを紹介していきます。「自然につくる」とは、どういうことでしょうか? この連載では、醸造に関しては、「人の介入を最小限にすること」としています。 発酵では、「仕込み、あるいは瓶詰め時に亜硫酸を添加しないこと」。あるいは「添加したとしても 極少量に限定していること、培養酵母は使わずに野生酵母に発酵を委ねること、添加物を加えないこと」。また、「糖分を加えたり、酸を調整したりはしないこと、清澄剤も使わず濾過も行わないこと」。これらを実践すること、と捉えています。栽培に関しては、化学合成農薬の不使用を前提としたいところですが、日本の気候条件下において、有機農業でワイン用ブドウを栽培するのは、現状では非常に困難であるため、時には最低限の農薬を使用せざるを得ない状況です 。また、原則として、除草剤や化学肥料は使わないことも前提です。こうしたワインづくりを実践しようとするのならば、それだけブドウは健全なものでなくてはならなくなり、醸造では細やかな心配りも欠かせなくなります。連載では、風土に敬意を払い、できるだけ自然にブドウを育て ワインをつくろうとするつくり手たちと、彼らのワインを紹介します。

アルザスのワインのような、豊かな酸の白。

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