第7話 『ジョジョの奇妙な冒険』のジョースター家のような日本酒の個性。ー薫酒、爽酒、醇酒、熟酒という分類ー

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    おおたしんじの日本酒男子のルール
    Rules of Japanese sake men.

    絵と文:太田伸志(おおたしんじ)
    1977年宮城県丸森町生まれ、東京在住。東京と東北を拠点に活動するクリエイティブプランニングエージェンシー、株式会社スティーブアスタリスク「Steve* inc.(https://steveinc.jp)」代表取締役社長兼CEO。デジタルネイティブなクリエイティブディレクターとして、大手企業のブランディング企画やストーリーづくりを多数手がける他、武蔵野美術大学、専修大学、東北学院大学の講師も歴任するなど、大学や研究機関との連携、仙台市など、街づくりにおける企画にも力を入れている。文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品、グッドデザイン賞、ACC賞をはじめ、受賞経験多数。作家、イラストレーターでもあるが、唎酒師でもある。
    第7話
    『ジョジョの奇妙な冒険』のジョースター家のような日本酒の個性。
    - 薫酒、爽酒、醇酒、熟酒という分類 -

    徐々に日本酒の奇妙な冒険

    今夏、『荒木飛呂彦原画展』が国立新美術館で開催されることが決定したそうだが、なにを隠そう僕は荒木飛呂彦先生の大ファンである。つまり『武装ポーカー』も『魔少年ビーティー』も『バオー来訪者』も『ゴージャス☆アイリン』も当然読んでいるが、今回は脱線せずに(日本酒のコラムなのにすでに脱線している説あり)『ジョジョの奇妙な冒険』(以下ジョジョ)にしっかりフォーカスしていきたい。

    ジョジョの魅力といえば、個性あふれる“スタンド使い”達だろう。スタンドとは、ジョジョの世界における超能力のようなもの。“スタンド使い”は、それを自在に操ることができるキャラクターを指す。スタンド使いたちのバトルシーンで特徴的なのは、単純な「パワー」比べではなく、「スタンドの能力」をベースとしながら心理的な駆け引きや瞬間的な判断をし、それが勝負を決める点。強さランキングで誰が1位であるかなどを単純に決めることはできない。よって、スタンドの能力、性格や人柄も含めてキャラクターの好き嫌いが熱く議論されるのも面白い。バーのカウンターなどで気軽にマスターとジョジョの話をしていると、周りのジョジョ好きの客が次々と立ち上がって、異常な盛り上がりに発展する場合があるので注意が必要だ。スタンドの意味が違う。

    今回は、そんな人それぞれの好みを見極める、日本酒においての「タイプ分け」を、歴代ジョジョの主人公にたとえて説明するという、奇妙な冒険を行ってみようと思う。

    薫酒ジョルノと爽酒承太郎

    味や香りなどの組み合わせが無限にある日本酒。そこで、概ねどのようなタイプの酒が好みかを選ぶために考え出されたのが「日本酒の4タイプ分類」である。どんな日本酒も「薫酒(くんしゅ)、爽酒(そうしゅ)、醇酒(じゅんしゅ)、熟酒(じゅくしゅ)」。この4タイプに分類されるという画期的な概念である。唎酒師がいるお店で注文に困ったらこの4タイプのどれかを伝えると、その中での今日のおすすめを教えてくれる便利な呪文である。

    さて、この4タイプをジョジョの歴代主人公にたとえてみよう。まずは「薫酒」。果実や花のようなフルーティで華やかな香りが特徴で、いわゆる大吟醸など吟醸と名のつく酒の多くが該当する優等生。最近流行しているものがこれである。これは第5部の主人公、ジョルノ・ジョバーナだなと言わざるをえない。口に含んだ瞬間、ジョルノのスタンド、「ゴールドエクスペリエンス」によって生まれた花や果実に囲まれて、圧倒的な上品さに一瞬が永遠に続くかのような感覚を味わうだろう。日本酒をあまり飲まない方にもおすすめ。苦手だったのに薫酒を飲んで日本酒を好きになったという意見もよく聞く。

    「爽酒」は、そんな上品なヤツらを無視して素通りするような、すっきりとした淡白な味わいが特徴。淡麗辛口と呼ばれるジャンルはこの爽酒に分類される。これは第3部の主人公、空条承太郎だろう。味わおうと思った瞬間、既に戦いは終わっているかのようなスピードとキレ味で、空条のスタンド「スタープラチナ」的な日本酒である。一時期、居酒屋は「辛口で」と言う方ばかりだった時期もあるが、最近は最初から爽酒を求める方は減ってきた気がする。

    醇酒仗助と熟酒ジョセフ

    「醇酒」は米の旨味や味わいが特徴で、吟醸ほど磨かれ過ぎていない純米系の日本酒にこのタイプが多い。派手ではないが、味わいがあるヤツ。第4部の主人公、東方仗助がこれに該当するのではないだろうか。ジョルノや承太郎のように洗練された印象はなく、むしろ人間っぽさが滲み出ていてミスも多いが、それはそれで魅力となっている。クールに生きるのではなく、泥臭くても、青臭くても、信じて前に進むことに意義がある。完璧以上の魅力が隠れている酒、それが「醇酒」である。醇酒は熱燗にするとお米の旨味が引き立つ場合も多い。

    「熟酒」。これはもう、第2部の主人公であり、第3部、第4部にも登場するジョセフ・ジョースターそのものではないだろうか。古酒や熟成酒などが当てはまる。ワインやウイスキーなどは、長い期間熟成を重ねた熟成酒があたりまえだが、日本酒においては長らくこの分野はスポットライトを浴びてこなかった。しかし、最近の日本食のグローバル化のせいか、この分野の可能性が再注目されている。とろりとした飲み口とドライフルーツやスパイスのような香りを感じる大人の味わい。ジョセフはいつだってユニークな発想で、僕らが常識だと思っていたことを乗り越えてくる。人生は想像通りのことだけではつまらない。そう教えられた気がする。ありがとう、ジョセフ。ありがとう、熟酒。

    バトルに合わせた能力の使い分けを

    今回、ジョルノな「薫酒」、承太郎な「爽酒」、仗助な「醇酒」ジョセフな「熟酒」という、4タイプを紹介したが、どれかひとつだけに決める必要は無い。たとえばシーンごとに、日本酒初心者な彼女との初めてのデートなら、爽やかでフルーティな薫酒を中心に。仕事について長時間親友と語るなら、水のようにずっと飲める爽酒を側に。気のおけない仲間とリラックスして鍋をつつくなら、醇酒を熱燗で。ひとり考えを巡らて集中したいなら、熟酒をちびちびと。

    または、食事の流れとともに変えていくのもよいだろう。たとえば僕はこんな感じだ。酔っていなく味覚が明確なうちに、華やかな薫酒を選んで繊細な香りを楽しみ、ほろ酔い気分になってきたら、見たことの無い銘柄から醇酒を選んで冒険を楽しみつつ、後半は安定のお気に入りの爽酒で「あー、やっぱり自宅はいいなぁ」みたいな安心感を味わう流れが多い。

    ビットコインの相場変動に一喜一憂する人々が最近のニュースで取り上げられているが、変化が激しい時代だからこそ大切なのは、価値を自分自身でどう見極めるかである。どの通貨を選ぶかも自由。ジョジョのどのキャラクターをリスペクトするかも自由。もちろん、どんな生き方を選ぶかも、どんな飲み方を見つけるかも自由なのである。読者にも流行りや情報に左右されず、自分の判断で好きな酒を見つけ、自分の判断で好きな飲み方を見つけて欲しい。そんな願いを込めながら、僕がジョジョで最も好きなキャラクター、岸辺露伴先生の名言で〆ることにする。

    「いいかい!最も難しい事は!自分を乗り越える事さ!」
    (「ジャンケン小僧・大柳賢とのバトル」より抜粋)