一番いいものだけを求めた、ウィンストン・チャーチルのダンディな着こなし。

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    一番いいものだけを求めた、ウィンストン・チャーチルのダンディな着こなし。

    文:小暮昌弘(LOST & FOUND) 写真:宇田川 淳 スタイリング:井藤成一
    イラスト:Naoki Shoji

    第4回 ジェームスロックのボーラーハット

    1940年5月30日、西部戦線を席巻したヒットラー率いるドイツ軍が英国に迫る中、サー・ウィンストン・チャーチルは英国の首相に就任する。首相就任演説では、「私には血と労苦と涙と汗しか提供できるものがない。しかし神が我々に与える限りの力を尽くして戦争を戦うことができる」と彼は高らかに宣言し、ドイツに傾きつつあった戦況をひっくり返し、英国を勝利に導いた。
    政治家として優れた人物であったことは明らかだが、同時に彼は洒落者=ダンディとしても知られていた。身に着けるスーツは背広の故郷、ロンドンのサヴィル・ロウで仕立てたビスポークスーツ。ドレスシャツももちろんビスポークだが、ヒットラーからの空襲で、防空壕に入るために同じシャツ店で「サイレンスーツ」と呼ばれる“つなぎ”を誂えた。
    朝からウィスキーを嗜み、いつも手には葉巻が手放さなかったが、その葉巻もロンドンのセント・ジェームスかジャーミン・ストリートの店で仕入れたもので、空襲に遭った時、とある店から「首相の葉巻はご無事です」と連絡が入った話は有名。いまでもロンドンの名店を訪ね回ると、チャーチルの足跡が多く残っている。今回は英国のウィンストン・チャーチルが愛用した名品を紹介しよう。

    日本式では山高帽、海外ではボーラーハット、「ジェームスロック」式ではコークハットと呼ばれる帽子。チャーリー・チャップリンが映画で愛用した帽子と言えば、誰でもその帽子をイメージできるだろう。ドーム型のクラウンにカールしたプリムは唯一無二のデザインだ。イングランド製。¥85,690(税込)/ジェームスロック

    ジェームズ・ヒュームズが書いた「チャーチルの強運に学ぶ」(PHP研究所刊)によれば、戦争中でも「贅沢は慎もう。だが、楽しみは別だ」とチャーチルは語ったと言われている。いつも英国紳士らしいスタイルを崩さなかった彼は、特に帽子に関して、さまざまなタイプのものを被り楽しんでいた。
    フォーマルなシルクハットはもちろんのことで、ホンブルグと呼ばれる中折れ帽や日本では山高帽と呼ばれるボーラーハット、ほかにもウエスタンハットやパナマハットといった、つばの広いリゾート風の帽子まで被っていた。ちなみに、バリー・シンガーが2012年に出版した『CHURCHILL STYLE: THE ART OF BEING WINSTON CHURCHILL』(ABRAMS IMAGE刊)では彼が愛用したさまざまなデザインの帽子が紹介されており、その中に登場するクラウンが平らになったジョンブルハットは、歴史的な写真でもよく見かける。
    チャーチル御用達でいちばん有名な帽子店がロンドンのセントジェームスにある「ジェームスロック」。創業が1676年と、現存する帽子店の中では世界最古である。現在でも同じ場所にショップを構え、過去にはネルソン提督、ジョン・レノン、チャーリー・チャップリンなど、錚々たる有名人が通った名店だ。
    チャーチルも被っていたと思われる山高帽は、「ジェームスロック」がつくったと言われている。また、この帽子を最初に注文した人の名前から、同店ではコークハットと呼んでいる。

    白の裏地にブランドのマークがプリントされている。裏地はシルクで光沢がある。

    カールしたプリムの形状がこの帽子の特徴である。昔は紳士用だったが、最近では女性が被る帽子としても人気。

    プリムと並んで特徴的なのは、クラシックな佇まいを感じさせるドーム型のクラウンだ。素材は最上級のラビットフェルトが使用されている。

    問い合わせ先/CA4LAショールーム TEL:03-5775-3433