大森南朋、鈴木浩介、桐谷健太のトリプル主演で描く、土地の呪縛に囚われた三兄弟の物語『ビジランテ』

  • 文:細谷美香

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『アウトレイジ 最終章』も記憶に新しい大森南朋を長男に、鈴木浩介、桐谷健太が三兄弟を演じる。
©2017「ビジランテ」製作委員会

自主映画の世界で粘り強く活動を続け、『SR サイタマノラッパー』が熱狂的に支持されたのが2009年。以降、『日々ロック』『ジョーカー・ゲーム』を手がけ、メジャーの現場へと躍り出た入江悠監督。今年は『22年目の告白-私が殺人犯です-』を大ヒットさせた、若き才能です。

これまで音楽映画からスパイ映画、ミステリー、SFなど多彩なジャンルに挑んできた監督の新作が『ビジランテ』。ルールなき世界を守る“自警団”という意味のタイトルをもちながら、皮肉なことにヒーロー映画ではなく、地方を舞台にした閉塞感あふれる物語が描かれていきます。

田園風景のなかを電車が走っていく、埼玉県のとある町。町の有力者であり、家庭では暴力で家族を支配する父を、自分たちの手で殺そうとした三兄弟。傷を負った長男・一郎はそのまま町を去り、次男・二郎は父の後継者として市議会議員に、三男・三郎はデリヘルの雇われ店長として働いていました。30年後、ショッピングモールの建設計画にわく町で、父の死をきっかけに3人が再会。モール建設に必要な土地の相続をめぐって争ううち、彼らは血で血を洗う闇社会の暴力と欲望へと飲み込まれていきます。

父と町の呪縛から逃れるように実家を離れたはずなのに、祖父が満州で苦労した金で手に入れた場所だからと、土地を売ることを頑なに拒む長男。一郎を演じた大森南朋は、自分自身でもコントロールできない矛盾を抱えた、崩れた男の色気を漂わせて演じています。上昇志向の強い妻(篠田麻里子、政治家の妻役がこんなに似合うとは!)にハッパをかけられながら、完全に狡猾になりきることもできない市議会議員の絶妙な小物感を体現した鈴木浩介。店の女の子たちを見下しているから生まれる同情ではなく、同じはぐれ者として手を差し伸べているような優しさと誠実さを感じさせる三郎役の桐谷健太。誰かひとり欠けても成立しない三兄弟としての存在感が、この物語を支えています。

焼き肉屋で三郎がとんでもない目に遭うシーンをはじめ、暴力から目を背けない入江監督の覚悟が全編にみなぎり、日本の郊外のショッピングモールが建つ土地はもれなく血に染まっているのではないか? などと思ってしまう後遺症が残ってしまうほど。そして中国人コミュニティを排斥しようとする自警団と、そこに属する少年たちの燃えるような怒りを描き出す場面からは、日本のみならず世界の縮図が浮き彫りになっていくのです。浅瀬のように見えるけれど、あがいてもなかなか向こう岸へと渡ることができない川の中で殴りあう兄弟の運命はどこへ向かっていくのか。重く暗い映画ではありますが、最後まで見届けた時、三兄弟の中の意外な人物に、光なき世界を生き抜くしぶとい生命力のようなものを感じました。

長男の一郎を演じるのは大森南朋。入江監督の出身地であり、『SR サイタマノラッパー』シリーズの舞台である埼玉県深谷市で撮影。
©2017「ビジランテ」製作委員会

三郎を演じるのは桐谷健太。脚本は若きヒットメイカーとなった入江監督自身が書き上げたオリジナル。
©2017「ビジランテ」製作委員会

『ビジランテ』

監督:入江 悠
出演:大森南朋、鈴木浩介、桐谷健太、篠田麻里子、嶋田久作ほか
2017年 日本映画 2時間5分
配給:東京テアトル
12月9日よりテアトル新宿ほかにて公開。
https://vigilante-movie.com