ただただ切なく美しい、チャン・イーモウ監督最新作「妻への家路」

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    舞台は文化大革命の最中の中国。大学教授だった夫・陸焉識(ルー・イエンシー)は、拘留の身となり、ある日、収容先からの移送途中に逃亡を謀ります。夫を愛し、何年もの間その帰りを待ちわびていた妻・婉玉(ワンイー)は、夫が家に逃げ戻ることを確信するのですが、運命はそれを許しません。妻は体制側の圧力を恐れ、ノックされたドアを開けることができませんでした。バレーダンサーとしての輝かしい未来を夢見ていた娘は、”逃亡者の娘”のレッテルを張られてしまったがために主役を失ってしまいます。そして、娘が手にした選択は、残酷にも父の居場所を体制側に密告することによって自らの将来を取り戻そうとすることでした……。

    たたみかけるような激動のプロローグの後、物語は穏やかに、ゆっくりと本題へと入ってゆきます。文化大革命は終焉を迎え、解放されたルー・イエンシーが、ふたたび幸せな家庭に戻れるにちがいないと、希望に満ちあふれ、家のドアをあけると、そこにあるはずの妻の笑顔はありません。不在の間、”何か”が彼女を蝕み、「夫だけを認識できない」という記憶障害に蝕まれてしまっていたのです……。

    この映画に描かれているのは、ただただ純粋で、まっすぐで、そして正しい夫と妻の愛の姿です。時代が時代であれば、知的で優しく、互いを思いやり深く愛し合う、誰もがうらやむような夫婦であり家族であったでしょう。それが、革命に翻弄され、手の届く距離にいながらも、触れることも、認識することさえもできないという「記憶と言う名の壁」にさえぎられてしまうのです。

    この映画の見所は、その壁をどう超えるか? どう打ち破るか? 自分を思い出してほしい、自分の存在に気付いてほしい、そして愛してほしいと、あらゆる手段を尽くす夫の一途な愛情表現です。そして、それを受ける妻は、常に”目の前にいる夫”を心から待ちわびているのです。(Pen編集部)

    スティーヴン・スピルバーグさえも感涙させた話題作。カンヌ国際映画祭、トロント映画祭をはじめとする13の映画祭でも賞賛を浴びている。

    『妻への家路』
    監督:チャン・イーモウ
    出演:チェン・ダオミン、コン・リー、チャン・ホエウェン
    2014年 中国映画 1時間50分 配給:ギャガ
    3月6日(金)~TOHOシネマズ シャンテほか全国順次ロードショー
    cominghome.gaga.ne.jp