職人気質に迫るファッション・ドキュメンタリー『マノロ・ブラニク トカゲに靴を作った少年』

  • 文:細谷美香

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監督を務めたのは『VOGUE』『GQ』などにも寄稿し、スタイリストやイラストレーターなどさまざまな顔をもつマイケル・ロバーツ。
©HEELS ON FIRE LTD 2017

ドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』で友だちの出産パーティに行ったキャリーが買ったばかりのマノロのシューズを盗まれたエピソードは切なすぎたよね、とか、映画『マリー・アントワネット』に登場するオリジナルの靴はマカロンみたいにかわいかった! とか。たとえ自分では一足も持っていないとしても、女性にとってマノロブラニクは“語れる”シューズブランドなんです。映画『マノロ・ブラニク トカゲに靴を作った少年』は、多くの女性を魅惑してきた靴の創造主、ブラニクの全貌に迫ったドキュメンタリー。なぜ彼の映画をここで紹介しているのか? 靴づくりにすべてをかける彼の驚異的な職人魂にスポットが当てられていて、女性たちだけに独占させておくのはもったいない作品だからです。

スペイン、カナリア諸島のバナナ農園で育ち、チョコレートの包み紙を使ってトカゲに小さな靴をつくって遊んでいたというブラニク。自然に親しむことで育まれた感性がインスピレーションの源となっていることも語られています。独学で靴づくりを学び始めた彼の道のりを追いかけながら、パリ、ロンドン、ニューヨークとファッションの現場が移り変わっていく様子を振り返ることができるのも、このドキュメンタリーの面白さ。アメリカ版『VOGUE』編集長のアナ・ウィンターをはじめ、彼を愛する人たちへのインタビューもたっぷりと収められています。

ヴィスコンティが映画化した『山猫』をこよなく愛し、クラシックなスーツに身を包んで、誰とも一緒に暮らしたくないと語るブラニク。どこかつかみどころのないキャラクターではありますが、窮地に陥ったジョン・ガリアーノに手を差し伸べたエピソードからは、築いてきた関係を大切にする彼の人柄が伝わってくるかのようです。

世界的なシューズブランドになったいまでも、アトリエにこもって靴をつくる時間が最も幸せだというブラニクはいま70代。白い手袋と白衣を身につけてあくまでも手仕事にこだわる彼の姿は、デザイナーというよりも豊かなイマジネーションをもつ研究者や職人のようです。女性たちを虜にするシューズの秘密が明かされる作品であるとともに、誰にも絶対に譲れない、没頭できることに出合った人の幸せを描き出した作品でもあるように感じました。

1971年に初のコレクションを発表以来、世界中の女性を夢中にさせるシューズのクリエイションに迫る。
©HEELS ON FIRE LTD 2017

VOGUEの編集長アナ・ウインターや歌手のリアーナ、デザイナーのジョン・ガリアーノなど、各界のセレブたちに愛される一足。
©HEELS ON FIRE LTD 2017

『マノロ・ブラニク トカゲに靴を作った少年』
監督:マイケル・ロバーツ
出演:マノロ・ブラニク、アナ・ウィンター、リアーナほか
2017年 イギリス映画 1時間29分
配給:コムストック・グループ
2017年12月23日より新宿ピカデリーほかにて公開。
http://manolo-tokage.com