アルツハイマーを患う元殺人鬼が連続殺人犯と対決する、『殺人者の記憶法』というサスペンスの新たな傑作。

  • 文:細谷美香

Share:

アルツハイマーを患う元連続殺人鬼を演じるのは、韓国の名優、ソル・ギョング。 ©2017 SHOWBOX AND W-PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.

前向性健忘を発症した男が、全身のにタトゥーや写真で記録し犯人探しをする『メメント』、認知症の老人が介護施設の友人の手紙をもとにナチスへの復讐の旅に出る『手紙は憶えている』など、“記憶”を巡るサスペンスの傑作に、また新しい作品が加わりました。

『殺人者の記憶法』の主人公、キム・ビョンスはアルツハイマーを患っている元連続殺人鬼。いまは獣医として働き、あれこれと世話を焼いてくれるひとり娘と静かに暮らしていました。ある日、田舎道で接触事故を起こした彼は、事故の相手であるミン・テジュに自分と同じ殺人犯の匂いを感じます。警察に相談したものの、取り合ってもらえず、やがてテジュは娘に接近。ビョンスは、毎日の出来事を録音することを習慣にしなければならないほどの頼りない記憶力に苦しめられながら、自力でテジュを捕らえようとしますが……。

物語がビョンスの視点で進むため、目の前で起こっていることが現実なのか、それともあやふやな記憶による誤りなのか、観ているこちらも混沌に身を置く状態になり、振り回されていくのがこの映画の面白さ。ビョンスが良くないと思う人物たちを消していった“殺人習慣”がよみがえるシーンには、残虐さの中にユーモアも漂っています。

ビョンスを演じたのはソル・ギョング。『力道山』でも大幅な肉体改造をした名優が本作では10kg以上も体重を落とし、骨と皮だけの老いさらばえた姿で登場、現実と妄想の間で苦悩する主人公に説得力をもたらしました。“新たな殺人鬼”テジュを演じたキム・ナムギルは逆に10kg以上も増量。怪しいパイソン柄のブルゾンが妙に似合っていて、イケメンのはずなのにナムギルってこんなに気持ち悪かったっけ……!?(褒めてます)と、まさに自分の記憶が信じられなくなるほどの変貌ぶり。野に放っちゃいけないヤツ感満載の粘着質で冷酷な表情に、何度も翻弄されてしまいました。あの大きすぎる顔がスクリーンに登場した瞬間、これは面白い映画に違いない!と思わせてくれる愛嬌のある名バイプレイヤー、オ・ダルスも主人公の友人でもある警察署長役で出演。韓国の演技派俳優の芝居をたっぷりと味わえるサスペンス映画です。

主人公ビョンスの娘は、韓国の人気ガールズグループAOAのメンバーのひとりであるソリョンが演じる。 ©2017 SHOWBOX AND W-PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.

主人公を演じるソル・ギョングと、警察署長役のオ・ダルスの関係にも注目。 ©2017 SHOWBOX AND W-PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.

原題:MEMOIR OF A MURDERER
監督:ウォン・シニョン
出演:ソル・ギョング、キム・ナムギル、キム・ソリョン、オ・ダルス
2017年 韓国映画 1時間58分 
配給:ファインフィルムズ
1月27日よりシネマート新宿ほかにて公開。
http://www.finefilms.co.jp/kiokuho/