ブラジルから届いた青春映画『彼の見つめる先に』は瑞々しく、切なく、そして愛おしい。

  • 文:細谷美香

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ベルリン国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞するなど、各国で高い評価を得ているブラジル映画です。

今年のアカデミー賞では、17歳と24歳の青年のひと夏の恋を描いた『君の名前で僕を呼んで』が話題を呼びましたが、ひと足お先に日本公開されるブラジル映画『彼の見つめる先に』もぜひチェックしてほしい作品。男子と男子の恋、そして同級生の女の子との三角関係を描いた瑞々しい青春映画です。

主人公のレオナルドは過保護な両親といつも優しい祖母、そして幼なじみの女の子、ジョヴァンナに見守られながら学校に通っている盲目の男の子。海外留学と初めてのキスに憧れる彼の毎日は、転校生のガブリエルとの出合いで、少しずつ色づいていきます。クラスメイトたちのようにレオをいじめたり笑ったりしないガブリエルとの距離は自然に近づいていきますが、ふたりが親しくなるにつれてレオは複雑な想いを抱えることになるのです。

ゲイであることを自覚していく目の不自由な少年が主人公ではあるけれど、この映画は彼がマイノリティであることを強調する作品にはなっていません。レオとガブリエルが触れ合うシーンからは、目が見えていないからこそ研ぎ澄まされる感覚が伝わってきます。しかしそれ以上に、セクシャリティへの目覚め、親から自立したいという思い、友情と恋の狭間にある関係など、多くの人がティーンの頃に経験する通過儀礼があくまでもフラットな視点で描かれています。自身の体験も投影させたというダニエル・ヒベイロ監督は、ドラマティックで悲劇的な展開に頼ることなく、ちょっとずつ大人の階段を上っていく瞬間のきらめきと戸惑いをすくいとることによって、レオの成長を描き出しました。

初めてひげをそったりお酒を飲んだり、プールサイドでじゃれあったり、自転車に二人乗りをして風を切ったり・・・・・・。一瞬が永遠になる青春の1ページを包み込むような柔らかな光からも、監督から3人への愛おしい思いが伝わってくるかのよう。2014年に製作されたブラジル映画ですが、この気負いのなさと爽やかさがLGBT映画に新しい波を起こしたことは間違いありません。


ベル・アンド・セバスチャンの楽曲が、甘酸っぱい青春映画を彩っています。

短編映画『今日はひとりで帰りたくない』が脚光を浴び、同じ監督、キャストで長編映画化。

監督:ダニエル・ヒベイロ
出演:ジュレルメ・ロボ、ファビオ・アウディ、テス・アモリンほか
2014年 ブラジル映画 1時間36分
配給:デジタルSKIPステーション/アーク・フィルムズ
3月10日より新宿シネマカリテほかにて公開。
http://www.mitsumeru-movie.com