カルト的人気を誇るホドロフスキーが、現実とファンタジーを融合して描く青春物語『エンドレス・ポエトリー』

  • 文:細谷美香

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主人公のアレハンドロを演じるのは監督の末息子、アダン・ホドロフスキー。
©2016 SATORI FILMS, LE SOLEIL FILMS Y LE PACTE

カルト的映画監督という呼び名がよく似合う、チリが生んだ鬼才、アレハンドロ・ホドロフスキー。70年代に発表した『エル・トポ』は、多くのアーティストたちに影響を与え続け、未完のSFシリーズについての顛末を追ったドキュメンタリー『ホドロフスキーのDUNE』や、軍事政権下での子供時代を描いた23年ぶり新作『リアリティのダンス』では新たなファンを獲得しました。

『リアリティのダンス』のエンディングからはじまる『エンドレス・ポエトリー』の主人公は、若き日のホドロフスキー。抑圧的で権威的な父親のもとで育ったひとりの青年が、詩人を目指しながら自分自身を探し出すまでの冒険を描いた自伝的な作品です。

舞台は故郷のトコピージャから首都のサンディアゴへ。そこでアレハンドロは、詩人のニカノール・パラやエンリケ・リンをはじめ、何ものにも囚われず、魂を解放するように表現活動をする人たちに出会います。鮮やかな色彩、躍動するあらゆる形をした肉体、踊り出すように世界へと広がっていく言葉。書割のような背景。過去の物語のなかに当たり前のように現れる、現在のホドロフスキー――。

彼の青春物語がまさに映像による詩によって綴られるわけですが、全編が観る者を新しい地平へと連れて行ってくれるシーンの連続。そのイマジネーションの洪水は、芸術は爆発だ! 的なとても自由で祝祭的なエネルギーに満ちあふれています。現実とファンタジー、日常と非日常が交錯し、融合するマジック・リアリズムは、あらゆる垣根を破壊し、すべての人生を肯定するためにある表現方法なのかもしれません。

奇想天外な映像世界ではありますが、描かれているのは父と子の確執、自分探しといった永遠のテーマゆえ、難解さとは無縁です。1929年生まれのホドロフスキーが、パリを舞台にする予定だという次回作でどんな世界を見せてくれるのか、奇跡の90代の新作が楽しみです。

ホドロフスキーとは初顔合わせとなるクリストファー・ドイルが撮影監督を務めています。
©2016 SATORI FILMS, LE SOLEIL FILMS Y LE PACTE

クラウド・ファンディングによって世界中のファンから制作資金が集まったことも話題に。
©2016 SATORI FILMS, LE SOLEIL FILMS Y LE PACTE

『エンドレス・ポエトリー』

監督:アレハンドロ・ホドロフスキー
出演:アダン・ホドロフスキー、パメラ・フローレンスほか
2016年 フランス・チリ・日本合作映画 2時間8分
配給:アップリンク
新宿シネマカリテほかにて公開中。

www.uplink.co.jp/endless