Vol.42 CGのような写真が連続する、スヘルテンス&アベネスの最新作品集。

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    写真・文:中島佑介(POST)

    Vol.42 CGのような写真が連続する、スヘルテンス&アベネスの最新作品集。

    “ZEEN” / Scheltens & Abbenes / Case Publishing
    『ジーン』 / スヘルテンス&アベネス写真 / ケース刊

    オランダを拠点に活躍するマウリス・スヘルテンスとリスベット・アベネスは、2002年に結成したフォトグラファー・デュオ。作品制作と並行して、ブランドの広告や雑誌などの撮影も数多く行っています。彼らにとってはいずれも重要な制作の場で、緻密にセッティングして撮影された作品はCGのようです。しかし、よく観察すると立体物を撮影した写真だという痕跡が見つけられます。三次元を二次元の世界で表現する写真の特性を活かし、「見る」という行為の根源を問うかのようです。2019年3月からアムステルダムの写真美術館「Foam」で彼らの個展がスタート(6月5日まで)。本書『ジーン(ZEEN)』は、この展覧会を機に出版されました。

    ZEENとはオランダ語の解剖学用語で、臓器や筋肉を引っ張ってつなぎとめるような機能をもつ部位の総称です。この言葉がもつ緊張感と曖昧性が写真の本質を暗喩しつつ、単語の発音は彼らが発表の場としてきたジン(雑誌)も彷彿とさせます。

    ブック・デザインにも特徴があります。ひとつ目は、薄く密度の高い用紙です。コンパクトな外見とは裏腹にずっしりとした本書を開くと、すべてのページは写真を裁ち落としでレイアウトしていて、思わずパラパラとめくりたくなります。読み手は個々の写真を鑑賞するのではなく連続するイメージとしてページをめくっていくことで、作品群の関係性を自然と捉えていくのです。

    ふたつ目の特徴は本の開きの方向で、左開きでも右開きでも自由に読めるようになっています。よって、この本は始まりも終わりも決まっていません。制作の時期や、プライベートワーク、コミッションワークといった差で優劣を付けない編集の仕方は、彼らの表現に対する姿勢をそのまま表しているかのようです。図版の扱い方、用紙、開きの方向など、細部をうまく積み重ねることで作家の考えを象徴した本書は、作品集でもあり、アートブックとしてのみ表現可能なもうひとつの「作品」でもあるのです。

    裁ち落としの図版が淡々と続く構成によって、隣接するイメージの対比がより鮮明になります。

    2015年に雑誌のために撮影した写真と、2011年の広告写真が並んだ見開き。インパクトのある構図が、作品集に緊張感をもたらしています。

    右開きでも左開きでも通用する表紙のデザイン。日本で一般的な左開き側の表紙には、「ジーン」「テキスト」といったカタカナの記載があります。

    “ZEEN” / Scheltens & Abbenes / Case Publishing
    『ジーン』 / スヘルテンス&アベネス写真 / ケース刊
    タイトル:『ジーン』
    写真:スヘルテンス&アベネス
    出版社:ケース
    ページ数:426ページ
    サイズ:22.5 x 17 cm
    ISBN-13:978-4-908526-23-7
    出版年:2019年
    価格:¥4,960(税込)※POSTでの先行販売価格