Vol.23 オラファー・エリアソンによる、アート制作の裏側を伝える一冊。

    Share:

    写真・文:中島佑介

    定期的に海外のひとつの出版社に焦点を当て、その出版社の本だけを取り扱うショップ「POST」のスタッフが、いま気になる一冊をピックアップ。今回、中島佑介さんが紹介してくれるのは、ベルリンを拠点に活動するアーティストのオラファー・エリアソンによるアートブック。このアートブックには、ほかのあらゆる本とは決定的に違った”赤裸々”さが存在します。

    Vol.23 オラファー・エリアソンによる、アート制作の裏側を伝える一冊。

    TYT (Take Your Time), Vol. 7: Open House / Olafur Eliasson / Studio Olafur Eliasson
    テイク ユア タイム Vol.7: オープンハウス / オラファー・エリアソン / スタジオ オラファー エリアソン

    アーティストのオラファー・エリアソンは、ベルリンに拠点を設けて活動をしています。現在はそこに約90名のスタッフが在籍し、チームごとにいくつものプロジェクトを同時進行しています。プロジェクトの規模や種類、扱う材料や形状などによってセクションが分かれ、さらにリサーチやメディア対応、展示プラン計画、作品輸送、経理といった仕事まで、すべての機能が組織内で完結しています。しかし、一般に公開されている作品からだけではその全貌を伺い知ることができません。今回ご紹介する本は、普段はベールに包まれているスタジオの内部から外部へのつながりまでを明らかにしたアートブックです。

    作る過程も含めて、アートです。

    「OPEN HOUSE」と題されたこの本は、オラファー・エリアソンのスタジオが発行元となっているシリーズ「TAKE YOUR TIME」の一冊として刊行されました。このシリーズは彼が気になっているトピックを詳細にリサーチし、1冊の本に仕立て、アーカイブするという活動で、これまでに7冊が刊行されています。

    内容は大きく分けて3つのパートから成り立っています。最初のパートは「Emergence: 出現」です。物事がどのようにはじまり、かたちになっていくのかを主題に、その工程に携わる人々の仕事を紹介しています。この段階では、まだリサーチやテストが主な作業になっているのが写真から見て取れます。

    2つめのパートは、「Embodiment: 具体化」です。作品をかたちにしていくこの過程では、実際に作品が発表される現場を想定した制作が行われています。規模も大きくなり、関わるスタッフも作業も多くなる段階ですが、このパートに、スタジオ内に設けているキッチンの様子も収められているのが、このスタジオの特徴を表しています。「キッチンがこのスタジオの心臓部にあたる」というモットーのもと、週に4日はスタッフ全員がひとつのテーブルに集まって食事をする時間を設けているというオラファー自身の考えが、この「具体化」のパートにキッチンのコンテンツを設ける理由になったのでしょう。

    3つめのパートは、「Engagement: 従事」と題され、作品やプロジェクトが発表されたのちにどのような関係性を社会と築いていくのか、その実例を伝えています。本来であれば、制作の現場には明かせない事柄も多く、そのまま見せることは避けたいはずですが、オラファーはあえて作品制作の全プロセスを飾らずに見せ、芸術が生活や社会活動の延長にあることを示しています。彼にとって、制作現場をまとめたこのプロジェクト自体も作品のひとつとして捉えているのでしょう。また、本というメディアは表現を多くの人に伝える作品集として機能しながら、編集の過程で物事を分析することのできる側面もあります。『TAKE YOUR TIME』を自ら編集することは、自身の活動を客観的な視点で捉えることも目的にしているのではないでしょうか。作品集でもあり、アーカイブでもあり、また自身の分析にもなり得る、本の多面性を感じられる一冊です。

    TYT (Take Your Time), Vol. 7: Open House / Olafur Eliasson / Studio Olafur Eliasson
    テイク ユア タイム Vol.7: オープンハウス / オラファー・エリアソン / スタジオ オラファー エリアソン
    ページ数:394ページ
    装丁:ソフトカバー
    サイズ:19.9 × 25.5 cm
    商品コード:ISBN 978-3-000565–66-3
    出版年:2017年
    価格:¥7,128