ホンモノの犯人も登場⁉新感覚のクライム・ムービー『アメリカン・アニマルズ』

  • 文:細谷美香

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文:細谷美香

Profile : 映画ライター。コメディや青春映画から日々の生きるエネルギーをもらっている。クセが強くて愛嬌がある俳優に惹かれる傾向あり。偏愛する俳優はニコラス・ケイジです。

ホンモノの犯人も登場⁉新感覚のクライム・ムービー『アメリカン・アニマルズ』

『X-MEN』で脚光を浴びたエヴァン・ピーターズら実力派若手俳優が集結。© AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018

実話を映画化した作品は数あれど、これほど挑発的な試みが行われた映画は久しぶりに観た気がします。『アメリカン・アニマルズ』は2004年にケンタッキー州の大学で起こった窃盗事件を描き出したクライム・ムービー。なんと本編に事件を起こした犯人たちへのインタビューが収録されているばかりか、本人が再現シーンにも登場します。

主人公は退屈な毎日を過ごしている大学生のウォーレンとスペンサー。図書館に収蔵されている時価1200万ドルものの稀覯本『アメリカの鳥類』を盗み出そうと思い付きます。ふたりは仲間を集め、タランティーノ監督の『レザボア・ドッグス』よろしく「ミスター・ピンク」「ミスター・ブラック」とお互いを呼び合い、計画を実行に移します。

しかしこの大学生たち、貴重な古書に目を付けたところはいいとしても、本気でこの実行計画がうまくいくと思っていたのか⁉ と疑問を感じるほどに、すべてがずさん。図書館の職員を縛るだけでもモタモタして、手袋もなしにそのへんを触りまくり、挙句の果てには…、とこの先は映画を観てもらうとして、とにかく老人の変装をした彼らのトホホ感と、スタイリッシュな編集と音楽が奇妙にマッチしてクセになるような味わいが生まれているのです。

何者かになりたいと思っているけれど、まだなにになりたいのかすらもわかっていない、世界中のどこにでもいる若者たち。これは実録映画であり、そんな情けなくも切実な時間を描いた青春映画でもあるのです。劇中に登場して当時を振り返る犯人たちの証言は当然のことながら、それぞれの視点や記憶によって食い違っています。この実話ものを観ていて感じるのは、パズルのピースがぴたりとハマっていく快感ではなく、ドキュメンタリーとフィクションの境界線がぐらりと揺れて壊れていくような新しい感覚。この作品には監督から観客への、“物語る”とは何か? という問いかけも含まれているのかもしれません。

彼らが目を付けたのは、図書館に所属され、時価1200万ドルという貴重な古書『アメリカの鳥類』。© AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018

『ダンケルク』で忘れがたい名演を見せた注目株、バリー・コーガンも出演。© AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018


『アメリカン・アニマルズ』

監督/バート・レイトン
出演/エヴァン・ピーターズ、バリー・コーガンほか
2018年 アメリカ映画 1時間56分 
5月17日より新宿武蔵野館ほかにて公開。
www.phantom-film.com/americananimals