ひたすらに国民を守った、ノルウェー国王の究極の決断。

  • 文:増田ユリヤ

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『ヒトラーに屈しなかった国王』

監督/エリック・ポッペ

ひたすらに国民を守った、ノルウェー国王の究極の決断。

増田ユリヤジャーナリスト

本国のノルウェーではロングランを続け、国民の4人に1人が鑑賞するという社会現象を巻き起こした。『007』シリーズのミスター・ホワイト役で知られるイェスパー・クリステンセンが主人公を演じ、プロデューサーとしても名を連ねている。©2016 Paradox/Nordisk Film Production/Film Väst/Zentropa Sweden/Copenhagen Film Fund/Newgrange Pictures

民主主義とは素晴らしく、また恐ろしいものだ。ただひたすら、ノルウェー国民を思って行動した国王ホーコン7世。一方、ナチス党首として一党独裁体制を確立し、ユダヤ人虐殺と戦争への道を突き進んだヒトラー。ふたりの共通点、それは国民による投票で選ばれたということだ。 

しかし、大衆の熱狂によって誕生した独裁者ヒトラーとは対照的に、20世紀初頭のノルウェー独立に際し、デンマークから国王としてやってきたホーコン7世は、温かな拍手と笑顔で迎えてくれたノルウェー国民のことを決して忘れない。中立国であったノルウェーを侵攻するなど本来あり得ないことだが、それを実行したヒトラーに最後まで屈することはなかった。 

この作品には、ノルウェー国王がヒトラーに抵抗し続けた3日間を通して、いかに国王ホーコン7世が家族や国民を愛し、祖国を守ろうとしたかがていねいに描かれている。オスロを追われ、逃げる途中でドイツ軍の空襲に遭った時にも、森の中で幼子を抱きかかえるようにして守った国王。私生活でも孫たちと過ごす時間を大切にし、幾度となく「家族バラバラなんて論外。万が一の時にも必ず愛する家族のそばにいなさい」と繰り返す発言からも、彼の人間性がにじみ出る。 

クーデターが起き、ドイツによる傀儡政権を認めるよう迫られた際にも、「この国の未来は国民の総意で決まる」とブレることはなかった。それが、ホーコン7世のいう民主主義の「正しい道」なのだろう。 

ヒトラーに忠誠を誓いながら「私にはノルウェーで生まれた娘がいる」と交渉の仲介に奔走したドイツ公使。銃撃戦で負傷しながらも、嘘をついてまで祖国を守ろうとした少年兵。国王周辺の人々の姿からも戦争の悲哀が伝わってくる。「平和」を絶対に手放してはならない。

『ヒトラーに屈しなかった国王』

監督/エリック・ポッペ
出演/イェスパー・クリステンセン、アンドレス・バースモ・クリスティアンセンほか
2016年 ノルウェー映画 2時間16分