上原ひろみの新作は、光の色を豊かに奏でるソロ・ピアノ作。

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    『Spectrum』

    上原ひろみ 

    上原ひろみの新作は、光の色を豊かに奏でるソロ・ピアノ作。

    中安亜都子 音楽ライター

    ⓒMuga Miyahara

    1979年、静岡県生まれ。17歳でチック・コリアと共演。これまで10枚以上のリーダー作をリリース。10月からのポーランド、スイスなどのヨーロッパ・ツアーを経て、11/17のサントリーホール公演を皮切りに、全国22カ所での国内ツアーを予定。

    ここ数年は腕利き演奏家とトリオを組んだり、コロンビア出身のハーピストとのデュオなど、冒険心に満ちた活動を経てきた上原ひろみ。新作となる『Spectrum』は多彩なコラボ活動から一変、ソロ・ピアノ作になった。ソロ作はこれで2作目。再びピアノに一人で向き合い没頭したかったと語る。
    「ピアニスト冥利に尽きるのがソロ・ピアノだと思います。ピアノだけで自分がどう表現できるかがより明確になりますから」
    曲名には白、黄色など光の色をテーマにした曲が並ぶ。
    「音と色は密接な関係があると思いますし、表現力が高くなるほど音色は豊かになるということもあって、今回、色をテーマに選びました」
    鋭角的に突き刺さってくるようなピアノ・タッチと、聴くものを圧倒する早弾き。それが彼女のピアノ演奏の個性だが、新作はメロディの膨らみやニュアンスが豊かになりカラフルな世界が表現されている。さらに今回特筆すべきは、22分以上に及ぶ「ラプソディ・イン・ヴァリアス・シェイズ・オブ・ブルー」だろう。ガーシュインの「ラプソディ・イン・ブルー」をメインにコルトレーンの「ブルー・トレイン」、ザ・フーの「ビハインド・ブルー・アイズ」と、ブルーづくしの曲をひとつに繋ぎ、自身のアドリブを交えて壮大な組曲のように仕立てた。レコーディングはワンテイクだったそうで、一気に弾きこなした演奏は手に汗握るスリルがあり、彼女の個性的なピアニズムが炸裂している。そして最後を飾るのは自作の「セピア・エフェクト」。
    「過去のことが美化されていく、それがセピア色の効果だと思います。最後の曲になった時点で、その前の曲は過去になる。そういった意味も込めて、最後に置きました」
    彼女のキャリアはこれからも色鮮やかに輝き続けそうだ。

    『Spectrum』
    上原ひろみ 
    UCCO-1211 
    ユニバーサル クラシックス&ジャズ 
    ¥2,860(税込)