フェルメールの時代にもあった、愛憎劇やバブルに共感する。

  • 文:AKI INOMATA

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『チューリップ・フィーバー肖像画に秘めた愛』

ジャスティン・チャドウィック

フェルメールの時代にもあった、愛憎劇やバブルに共感する。

AKI INOMATAアーティスト

原作は、『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』も映画化されているデボラ・モガーが、フェルメールの絵画にインスパイアされて執筆した小説。『恋におちたシェイクスピア』でアカデミー賞を受賞したトム・ストッパードが脚本化した。©2017 TULIP FEVER FILMS LTD. ALL RIGHTS RESERVED.

上野の森美術館のフェルメール展と時期を合わせて封切られる、17世紀オランダを舞台とした映画だ。ヨハネス・フェルメールは登場しない。しかし、巨匠フェルメールの絵画を彷彿とさせる衣装を纏った女主人公らと、その肖像画を描くことになる若き貧乏画家のドラマが、フェルメールの作品世界へのオマージュに満ちた美しい映像で紡ぎ出されている。特に当時の街並みや人々の暮らしぶりの再現は見事で(製作費は2500万ドルとも!)、フェルメールの絵画にも見られる白い頭巾や襞襟といった衣装も興味深い。
一方、物語は主人公ソフィアの清廉な雰囲気を裏切るかのように、ドロドロの不倫劇へと進んでいく。裕福な家に嫁いだ女と貧乏画家の秘密の恋が順調に進むわけもなく、手に汗握る展開が待っているのだが……(恋の激情は恐ろしい)。
芸能人の不倫が頻繁にニュースで取り上げられ、SNS上で叩かれる現代からすると、主人公はなんてひどい女だ、と憤慨する人も多いのではないだろうか。孤児で修道院で過ごしていた主人公が、豪商との結婚により豪邸に高価なドレスといった贅沢な暮らしに変わった背景を考えると、なおのことだろうか。
だが親子ほどに年の離れた老齢の夫、金で買われるように決まった結婚は、当時は珍しくなかった「不釣り合いな結婚」である。そう考えると、結婚の在り様自体に疑問が湧いてくる。
本作は17世紀のオランダで人々を熱狂させたチューリップバブルの様子も描いている。希少な品種のチューリップの球根ひとつに現在の日本円で約3億円もの値がついた。そう聞いてもにわかには信じがたいが、現代の仮想通貨バブルがチューリップバブルになぞらえられることを考えると、酒場で球根に賭ける人々の狂乱ぶりは、とても他人事には思えない。

『チューリップ・フィーバー肖像画に秘めた愛』
監督:ジャスティン・チャドウィック
出演:アリシア・ヴィキャンデル、デイン・デハーンほか
2017年 アメリカ・イギリス合作映画 1時間45分 10月6日より新宿バルト9ほかにて公開。
http://tulip-movie.com