狂おしいほど相手を求め続けるのに、一緒にはいられないふたりの愛を描いた映画。

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    『COLD WAR あの歌、2つの心』

    パヴェウ・パヴリコフスキ

    狂おしいほど相手を求め続けるのに、一緒にはいられないふたりの愛を描いた映画。

    在本彌生フォトグラファー

    『イーダ』で国際的な評価を得たポーランドの名匠、パヴェウ・パヴリコフスキ監督が、再び美しいモノクロ映像で撮り上げた愛の物語。アレンジを変えてリフレインされるポーランドの民族音楽の調べも、忘れがたい印象を残している。

    身も心も深く結び付いている者同士が、ずっと一緒に寄り添っていられるとは限らない。ズーラとヴィクトルがそれについて、この映画の中で明らかにしてくれる。

    このふたり、好きだからいつも一緒!なんていうかわいらしい関係ではない。時代と場所を超え(そんなものは吹き飛ばすような情熱で)狂おしいほどに相手を求め続ける。あの人に会うためなら手段も選ばないといった具合なのに、ひとたび再会するとふたりはずっと一緒にはいられない。掌を返したようにあっさりと相手を裏切ることさえあるくらいで、やがて別々の世界でそれぞれのパートナーと暮らすようになる。

    それなのに、目の前にその人が現れることをふたりとも待っている、そのチャンスを探っている……。そう、これもひとつの愛のかたちなのだ。

    感情の振れ幅が大きく、思いを決したらひと息に突き進む。凄みのある生き方に見えるが、ふたりが否応なく巻き込まれていく様子は「静かに激しく」、それこそがあの時代を生きるすべだったのかもしれないとも思えた。

    己の想いに翻弄される人生を抱えた存在感は、スクリーンの中で憎らしいほど鮮やかに映し出される。スタンダードサイズの画面に、豊かな階調のモノクロームで描かれた映像は、一瞬一瞬が染みわたるよう、どのシーンもこれ以上ないほどに美しく情感にあふれている。彩度に富んだ映像に慣らされ切った目には、非常に情緒的に見えてくる。ミニマムな表現ほど豊かな美をつくり出すということか。

    「あの歌」を、ヨーロッパの東西で場所を変えて、言葉を変えて歌うズーラの歌声に、彼女が見せる眼差しや表情が重なって、最後には耳に目に焼き付いて離れなくなった。もはやズーラは私の新しいファム・ファタルになってしまったのだ。

    『COLD WAR あの歌、2つの心』
    監督/パヴェウ・パヴリコフスキ
    出演/ヨアンナ・クーリク、トマシュ・コットほか 
    2018年 ポーランド・イギリス・フランス映画 1時間28分 6月28日よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開。
    https://coldwar-movie.jp