資本主義が生んだモンスターと、格差社会とをまざまざと暴く『グリード ファストファッション帝国の真実』

  • 文:細谷美香

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グリード(=強欲な)主人公を演じるのは、マイケル・ウィンターボトム監督作品の常連俳優、スティーヴ・クーガン。ファッション業界を舞台にした作品であるだけに、大物スターやセレブリティもカメオ出演している。 (C)2019 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. AND CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION

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ファストファッション・ブランドのTOPSHOPを擁していたアルカディア・グループは昨年、経営破綻した。栄華を極めたブランドの裏で、いかに無慈悲なビジネスが展開されていたのか。オーナーのフィリップ・グリーン卿をモデルにした悪趣味な成功者を主人公に、それを皮肉たっぷりに暴いたブラックコメディが『グリード ファストファッション帝国の真実』だ。

マイケル・ウィンターボトム監督は、これまでもマンチェスタームーブメントの栄光と挫折を描く音楽映画『24アワー・パーティ・ピープル』など、実在の人物を題材にした作品を手がけてきた。監督は今回の映画について「1980~2000年代に事業を築き上げた大富豪の目を通して、資本主義についての複雑なテーマを見ることができる」と語る。

この映画の舞台はミコノス島。白すぎる歯を輝かせる主人公は60歳の誕生パーティのために、『グラディエーター』のごときコロッセオを再現させるべく労働者に無理難題を押し付け、本物のライオンまで用意させている。海辺に住むシリア難民は、彼にとっては景観を邪魔するだけの存在であり、回想シーンで明かされるのは、南アジアの縫製工場で不当な低賃金で働かされる女性たちの実態だ。声なき貧困層を犠牲にして巨万の富を築いた男に、とある強烈なかたちで鉄槌が下されるシーンに監督のメッセージが込められているのだろう。

「本作では、これまでの30年間で形作られてきたものが、ある意味では間違っているかもしれないという視点を提示した。サッチャー政権によって推し進められた経済政策、自由市場資本主義、80年代のウォール街の『成功するためには貪欲になれ』という精神は現代でも生きているが、そういう時代は終わりに近づいている。崩壊しているのはファッション業界なのか。それとも主人公が築いた帝国が衰退しただけなのか考えてほしい」と監督。

格差社会の現実を数字で示したエンドロールまで、まさに世界のいまが詰め込まれた映画だ。

(C)2019 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. AND CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION

『グリード ファストファッション帝国の真実』
監督・脚本/マイケル・ウィンターボトム
出演/スティーヴ・クーガン、アイラ・フィッシャー、シャーリー・ヘンダーソンほか
2019年 イギリス映画 1時間44分 6月18日よりTOHOシネマズ シャンテほかにて公開。
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