思いがけず家族の真実を知った、ひとりの青年の成長の物語。

  • 文:いしわたり淳治

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『さよなら、僕のマンハッタン』

マーク・ウェブ

思いがけず家族の真実を知った、ひとりの青年の成長の物語。

いしわたり淳治 作詞家 ・ 音楽プロデューサー

マーク・ウェブ監督が『(500)日のサマー』よりも 前に脚本に惚れ込み、温め続けていたという企画がジェフ・ブリッジス、ピアース・ブロスナンら名優の共演で実現。主人公役の新星カラム・ターナーが瑞々しい演技を披露している。© 2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC

人は誰しも子どもから大人になる時、ふくらはぎが攣つるほど背伸びをして毎日を過ごす。そんな調子だから青春の終わりは、真っ直ぐ前に進むのだってままならない。そして右に左にふらつきながら、本来進むはずだった道をそれて、周囲の大人や仲間や自分自身に「無難な人生はゴメンだ」と言い訳をするのだ。 
映画の舞台はニューヨーク。大学の卒業を機に親元を離れた青年トーマスは、ひとり暮らしをしている安アパートで奇妙な隣人に出会う。そしてその隣人からしだいに人生のアドバイスを受けるようになる。恋愛も上手くいかず、就職もせず、退屈な日々を送っていたトーマスはある日、父の不貞を知り、父の愛人の尾行をし始める。あろうことか、トーマスは彼女に恋をし、父から略奪するべく深い関係に落ちていく。 
その複雑な恋愛模様は彼自身も予想だにしなかった衝撃の結末へと突き進んでいく。隣人の正体、家族の真実を知ったことでトーマスは初めて自分の意思で大人の階段を歩み始める。サイモン&ガーファンクルの名曲『ニューヨークの少年』にのせて――。 
青春時代というのは楽しくも苦しいものだ。自分は何者にもなれると思いながら、内心ではまだ何者でもない現実に怯えている。大人は価値観の違いでみんなが敵に見え、同世代には同属嫌悪をこじらせて一緒にされたくないと背を向ける。唯一の救いの恋愛も未熟者同士ではなかなか上手くいかない。トーマスは同時多発的なそれらの中で必死にもがいている。 
誰もが大人になるほど失敗を恐れ、失敗しない術を知りたがるようになる。だが、大切なのは先人たちの「古い答え」を知ることではなく、いつまでも「新鮮な疑問」をもち続けることかもしれない。トーマスの澄んだ瞳が私たちにそう問いかけてくる。

『さよなら、僕のマンハッタン』
監督:マーク・ウェブ
出演:カラム・ターナー、ジェフ・ブリッジス、ケイト・ベッキンセールほか
2017年 アメリカ映画 1時間28分 
丸の内ピカデリーほかにて公開中。
http://www.longride.jp/olb-movie/