「事実」を直視する習慣こそが、世界を希望に導く力を生む。

『ファクトフルネス 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』

ハンス・ロスリング/オーラ・ロスリング/アンナ・ロスリング・ロンランド著

「事実」を直視する習慣こそが、世界を希望に導く力を生む。

石戸 諭 ノンフィクションライター

「世界の人口のうち、極度の貧困層の割合は、過去20年でどう変わったか」。グローバル化で格差が広がり、ずっと増えたようなイメージがあるが、ファクトが示す実像はまったく違う。「約半分にまで減った」が正解だ。世界は少しずつではあるにせよ、確実によくなっている。
本書が提唱するメッセージはきわめてシンプルかつ本質的だ。安直なイメージや劇的なストーリーに振り回されるのではなく、ファクトを忠実に見ていく習慣=ファクトフルネスを実践せよと説く。人が大げさなストーリーに振り回されてしまう理由を、医師で公衆衛生学者でもある著者は「10の思い込み」と呼び、ていねいに分析している。ここでは、分析そのものには深入りしない。重視するのは、ファクトフルネスをどのように役立てるかだ。
著者のメッセージは、情報化が進む社会の中で、人が抱きがちな「私たちは世界のすべてを知っている」という傲慢さへの戒めであるように思える。人は実のところはなにも知らないし、バイアスで判断もするし、事実を直視することも苦手である。世界を悪くしている「犯人」がいると思い込み、誰かを叩くことに執着する。だからこそ、間違いは起きる。これも重要なファクトだ。
著者が主張する「ファクトフルネス」を習慣化した先にあるのは、自分が間違いを起こしうるということを素直に認め、他者と間違いを許し合える社会。それは身近なところから実践できる。たとえばギスギスとミスを指摘し合う職場より、寛容な職場のほうが、心が穏やかになることは容易に想像できるだろう。穏やかさは、なにかをよくしていきたいというポジティブな力の源泉になる。
本書は単に知識を深める本ではない。希望を描くための基礎力を身に付けるための一冊なのだ。

『ファクトフルネス 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』
ハンス・ロスリング/オーラ・ロスリング/アンナ・ロスリング・ロンランド著 上杉周作/関美和訳
日経BP社
¥1,944(税込)

「事実」を直視する習慣こそが、世界を希望に導く力を生む。

次号予告

商店街・純喫茶・銭湯・ヒーロー・歌謡曲…ほか

昭和レトロに癒やされて。