愛だけでは治らぬ依存症の現実、子どもと一緒に見てほしい。

    Share:

    『ビューティフル・ボーイ』

    フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン

    愛だけでは治らぬ依存症の現実、子どもと一緒に見てほしい。

    和田秀樹精神科医/国際医療福祉大学心理学科教授

    原作はネットフリックスのドラマ『13の理由』の脚本家が著した薬物依存症であった自身の回顧録。『君の名前で僕を呼んで』で脚光を浴びたティモシー・シャラメと、彼が敬愛する俳優のひとりだというスティーヴ・カレルが親子役で共演している。©2018 AMAZON CONTENT SERVICES LLC.

    アメリカではちょっとした親への反抗心や現状への不満からドラッグに走る子どもは少なくないが、ある確率で恐ろしい依存症に陥ってしまう。
    治療施設のしつらえが私のアメリカ留学中を思い出させるほど細部までつくり込まれたこの作品は、依存症との戦いをリアルに描いたものだ。
    美少年のティモシー・シャラメが、堕ちていく少年の葛藤を見事に演じている。ときに親を騙し、周囲を裏切り続ける。その一方で、ドラッグをやめたい気持ちは人一倍ある。でも、その意思が壊される病気が依存症なのだ。
    父親はもちろん彼をなんとかしようとする。しかし病気の本質がわからないうちは意志の力で治ると思い、当たり前の叱責をしてしまう。愛だけでは治らない病気の恐ろしい本質を知ると諦めようと自分を言い聞かせる。
    これはそんな親と子の手記を原作とした実話だ。エンドロールにその子どもが8年間しらふでいることが書かれるが、「並外れた支援と努力により」と明記される。まだいつ襲ってくるかわからないし、並外れたことなのだ。
    忘れやすい日本人は本作の公開の頃には忘れてしまうかもしれないが、あるアーティストがコカイン使用で逮捕された。偶然とは思えない。
    というのは、日本人のほとんどが意志が弱いから依存症が治らない、ドラッグは犯罪性向をもつような人間が手を出すと思い込んでいる。アメリカの50歳以下の死因のトップが薬物過剰摂取であると最後に訴えるこの映画は、思い込みを改めてくれるはずだ。
    確かに麻薬は他人事かもしれないが、日本のアルコール関連死は年間5万人、スマホ依存の中高生は90万人とされ将来の社会生活に影響する。なのに販売も広告も厳重と言えるほどの規制がない怖い国に住んでいるのだから、この映画を、精神科医として子どもとぜひ見てほしいのだ。

    『ビューティフル・ボーイ』
    監督/フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン
    出演/スティーヴ・カレル、ティモシー・シャラメほか
    2018年 アメリカ映画 2時間 TOHOシネマズシャンテほかにて公開中。
    https://beautifulboy-movie.jp