ニューヨークの出版社が示した、本と読者の新しい関係。

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    『ベストセラーはもういらない ニューヨーク生まれ 返本ゼロの出版社』

    秦 隆司 著

    ニューヨークの出版社が示した、本と読者の新しい関係。

    今泉愛子ライター

    出版ビジネスは、今後どんな道をたどるのか。多くの出版人が抱える漠とした不安と真摯に向き合った一冊である。1996年にニューヨークでアメリカ文学専門誌『アメリカン・ブックジャム』を創刊し、現地で取材を続けてきた日本のジャーナリストが、電子本とオンデマンド本に特化したニューヨークの出版社「ORブックス」のオーナー、ジョン・オークスを長期にわたり取材。出版の未来を切り開くためのカギを、彼の実践をもとに明らかにしていく。
    オークスはアメリカの出版ビジネスの最大のリスクは返本制度にあると考えた。書店は一定期間内であれば仕入れた本を自由に返本できるが、そもそも一冊ごとに異なる個性をもつ本は売り上げ予測が立てにくい。一歩間違うと、出版社は大量の在庫を抱える羽目になる。そこで彼が2009年に友人と立ち上げたORブックスは、電子本とオンデマンド本に特化。“返本ゼロ”と“読者への直販”を目指したのだ。
    この発想が生粋の出版人であるオークスから出てきたことが興味深い。一流紙の名物記者だった父をもつ彼は、バーニー・ロセット率いるグローブ・プレスで1年ほど働いた後にORブックスを創業、経営者としても出版ビジネスに取り組んでいる。いまの課題は、読者に本の存在をどうやって気付いてもらうか。興味をもつ読者に本の情報をどう届けるのか。メディアの利用も欠かせないが、SNSや動画配信など読者に直接アプローチする方法を模索している。
    出版記念講演のために来日したオークスは、著者とともに登壇。アメリカの電子本市場では、大手出版社のシェアが落ち、独立系や個人出版のシェアが拡大傾向にあると明かした。 
    出版は今後どんどん変わるのだろう。時代の波をつかんだ本が生き残っていくのだ。

    『ベストセラーはもういらない ニューヨーク生まれ 返本ゼロの出版社』
    秦 隆司 著
    ボイジャー
    ¥2,700(税込)