田舎町の3枚の看板から始まった、正義と怒りと死を巡る三題噺。

『スリー・ビルボード』

監督/マーティン・マクドナー

田舎町の3枚の看板から始まった、正義と怒りと死を巡る三題噺。

町山広美 放送作家

監督は、これまで『ヒットマンズ・レクイエム』『セブン・サイコパス』などを手がけてきたマーティン・マクドナー。長編映画の3本目となる『スリー・ ビルボード』はアカデミー賞の前哨戦、ゴールデ ングローブ賞の4部門で受賞した。©2017 Twentieth Century Fox

「3」の映画である。3枚の看板を巡る、3人の物語。 

ミズーリ州の田舎道に立つ看板に、初老の女ミルドレッドが広告を出した。「レイプされて焼き殺された」「逮捕はまだ」「ウィロビー署長、なんでよ?」解決されない娘の死への怒りを、さあ聞けと掲げたのだ。住民と警察は騒然。だが彼女は退かない。 

バンダナをハチマキさながら額に結んだ、フランシス・マクドーマンド演じるおっさんみたいなおばさん、その大暴れが笑いを誘う。彼女が「かわいそうな被害者家族」に当てはまらないように、ウィロビー署長も「傲慢で怠惰な権力者」という予見を裏切る。家族想いで、無能で怠惰な部下にも優しい。だが、その優しさと諦観に罪はないだろうか。そして部下ディクソンは予想を上回るダメ警官。差別によってなけなしの自尊心を守り、勤務中もアバのヒット曲で耳を塞ぐしかない心貧しき男を、サム・ロックウェルがこの上なく憎々しく演じて見事だ。 

果たして、正義は実現されるのか。 

人は容易に怒りの乗り物に堕ち、光を見失う。正義と怒りと死を巡るこの三題噺を、演劇出身の監督マーティン・マクドナーが自ら書き上げた。卓越した知性と思索をともにする快感を体験できる、素晴らしい脚本だ。 

レイプの告発をコミュニティが疎む。この構図は、ハリウッドから始まった女性への暴力に対する訴えが直面する現実と呼応しているし、警官の差別的な暴力も進行形の現実だ。そんな社会のいまを捉えながらも、物語は人間の可能性を信じるクラシックな美しさがある。 

クルマで始まった物語はクルマで終わる。だが、ミルドレッドひとりだったクルマには意外な同乗者が。そしてハンドルは怒りではなく人に握られていて、車窓のつまらない景色のまばゆさに、私たちは気付く。

『スリー・ビルボード』

監督/マーティン・マクドナー
出演/フランシス・マクドーマンド、ウッディ・ハレルソン、サム・ロックウェルほか
2017年 イギリス映画 1時間56分 

田舎町の3枚の看板から始まった、正義と怒りと死を巡る三題噺。

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やっぱり、アメトラでいこう。