古都コルドバの風景が浮かぶ、現代のフォルクローレ

  • 文:栗本 斉

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『シンフィン』

ルカス・エレディア 

古都コルドバの風景が浮かぶ、現代のフォルクローレ

栗本 斉音楽ライター

もうずいぶん前になるが、アルゼンチンのコルドバという街を訪れたことがある。ここはのんびりと散策するには最高の場所だった。中心部に小さな川が流れ、美しい石畳の舗道があり、古い教会がいくつも目に入った。なにより、南米最古といわれる大学があるためどこに行っても学生が闊歩しており、古都なのにフレッシュな空気に包まれていたのが印象的だ。 

この街を拠点に活動するシンガー・ソングライター、ルカス・エレディアの歌声を聴くと、あの旅の風景が自然に浮かび上がってくる。2010年にアルバム『AdentroHayUnJardín』でソロ・デビューしてまだ10年に満たないアーティストであるが、落ち着いた語り口が魅力だ。アコースティックギターを抱えながら自作曲を歌うスタイルであると同時に、ピアノやオルガンなども弾き、場合によってボンボやカホンといったパーカッションを叩くこともある。そして、憂いのあるソフトなヴォーカルでメランコリックなメロディを紡いでいくのだ。 

この新作でもスタイリッシュでポップな印象のナンバーがメインにありながら、詩人の朗読を配しベテラン歌手ホルヘ・ファンデルモーレを招いた古風な「HijosDeLaFlor」から、数年前に亡くなったカリスマロック歌手スピネッタへの思いを綴った「AsísinMás」まで、どれも一貫して美しい。洗練されているにもかかわらず、ほのかに土や緑や水といった自然のにおいを感じさせるのは、やはりコルドバで大切に歌を育んでいるからだろう。 

アルゼンチンの現代的なフォルクローレというと、カルロス・アギーレやアカ・セカ・トリオなどが日本でも熱心なファンに聴かれており、ルカス・エレディアもそのシーンの重要人物。彼の歌声を聴いていると、いつかコルドバを再訪したいと強く願ってしまうのだ。

アルゼンチンのコルドバで活動し、ラプラタ流域のミュージシャンたちとも積極的に交流するシンガー・ソングライター/ギタリスト。近年大きな盛り上がりを見せるアルゼンチン地方都市の、新しい音楽ムーヴメントを象徴するような存在である。

『シンフィン』

ルカス・エレディア 
PPT-002 
PAPITA MUSICA╱アオラ・コーポレーション 
¥2,700(税込)