何かと混ざることを前提とし、でも「ジャズ」と呼ぶほかない音楽。

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    『フライト』

    ジェイムズ・フランシーズ

    何かと混ざることを前提とし、でも「ジャズ」と呼ぶほかない音楽。

    柳樂光隆ジャズ評論家/音楽ライター

    NYを拠点に活動するピアニスト、キーボーディスト、作曲家。パット・メセニー、クリス・ポッターなどジャズ界の大御所たちと共演してきた一方、ヒップホップやR&Bのジャンルにおいてもコモンなど錚々たるメンバーとコラボレートしてきた。

    アメリカのヒューストンにHigh School for the Performing and Visual Arts (通称HSPVA)という芸術高校がある。この学校からR&Bシンガーのビヨンセをはじめ、ピアニストのロバート・グラスパー、ドラマーのクリス・デイヴらが輩出されたことで、近年、大きな注目を集めた。2018年に弱冠23歳でジャズの名門ブルーノートから『フライト』でデビューしたピアニストのジェイムズ・フランシーズもHSPVAの出身だ。ちなみに同校卒業後にNYのニュースクールに進学し、ブルーノートと契約したジェイムズはグラスパーと同じ道を辿っている。
    グラスパーらの世代は、子供のころから耳にしてきたヒップホップとジャズを融合させるために試行錯誤してきた。ただグラスパーより16歳下のジェイムズはジャズを始めた時点で彼らの音楽が前提にあり、ジャズが何かと混ざることを所与のものとしている世代。本作を聴くとそれがよくわかる。
    「Ain't Nobody」「Reciprocal」では打ち込みのビートの質感を生演奏で再現したような演奏も聴こえるが、そのビートもジャズ由来の即興演奏の中でどんどん変化する。サンダーキャットらLA界隈とも通じる「Dreaming」ではクラシックを通過した現代的旋律のピアノの即興に大胆なエフェクトを組み合わせる。様々なジャンルを消化し、自らのフィルターを通しモザイク状に再構築している彼の音楽はジャンルの足し算でも、ジャンルの挟間でもなく、もはや「ジャズミュージシャンによる新しい音楽」として聴くほかない。ただ、あくまで高度な技術を駆使した生演奏であり、その場で音楽が生み出される即興演奏がベースにあるという意味で、「ジャズ」と呼ぶほかない音楽であることもこの『フライト』の魅力だ。

    『フライト』
    ジェイムズ・フランシーズ
    UCCQ‐1092
    ユニバーサル クラシックス&ジャズ
    ¥2,700(税込)