原子力の運用法は、 慎重に考える段階。
Takeshi Kobayashi
1959年山形県生まれ。音楽家。2003年に「ap bank」を立ち上げ、自然エネルギー推進や、野外イベントを開催。19年には循環型ファーム&パーク「KURKKU FIELDS」をオープン。震災後10年目の今年、櫻井和寿、MISIAとの新曲を発表。宮城県石巻市を中心に発信するアートイベント「Reborn-Art Festival」も主催している。
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【エネルギー(前編)】
ENERGY Vol.1
「ap bank」などの活動を通して環境問題に向き合うなど、サステイナブルな社会について考え、行動してきた小林武史さん。その目に、サステイナブルの行方はどう映っているのか。連載15回目のテーマは「エネルギー」の第一弾。多くの環境プロジェクトを支援してきた小林さんにとって、エネルギーのあり方は重視するテーマのひとつ。「東日本大震災が起きたことで、日本のエネルギー問題は玉虫色になってしまった」と小林さんは言う。

原子力の運用法は、 慎重に考える段階。

森本千絵(goen°)・絵 監修 illustration supervised by Chie Morimoto
オクダ サトシ(goen°)・絵 illustration by Satoshi Okuda
小久保敦郎(サグレス)・構成 composed by Atsuo Kokubo

20世紀の終わり頃から、日本は温室効果ガス排出の削減に前向きに取り組み始めました。当時は京都議定書を取りまとめるなど、オピニオン的には世界をリードしていた感すらあります。エネルギー政策に関しても、国が独占的に管理するのではなく、地域で自律分散していく。さらに自然エネルギーの活用を増やしていく。そんな流れがあったように思います。ところが東日本大震災があり、あやふやになってしまいました。

福島で事故が起こると、原子力エネルギーこそいま見直すべき問題という風潮が高まりました。そのとき「ならば石炭や石油を燃やせばいい」という声が上がったのです。そもそも自然エネルギーに頼ろうとしたのは、CO²を排出する発電方法を減らすためでした。ところが、放射能のインパクトで、その大もとを見失ってしまった。

西欧では、福島の事故をきっかけに脱原発を推し進める国が出てきました。でも気候変動による環境への影響が深刻化すると、脱化石燃料にシフトします。一方、当事国である日本はしばらく玉虫色の状態が続きました。温暖化の話がテレビの討論番組で取り上げられることが減り、その分、原発政策の話題が増えた。それも次第に風化しつつあるいま、各地で再稼働が頻繁に議論されるようになっています。

原子力エネルギーは、事故を起こせば甚大な被害をもたらすし、経済的ダメージも大きい。未来への負荷もかける。だからクリーン、もしくはグリーンなエネルギーとは呼べない。僕はそういう立場。でも何歩か譲って、このエネルギーについて考えてみましょう。

宇宙の成立には核分裂や核融合のような力が働いていて、同様にして太陽が燃え続けている。そうして、僕らが存在している。それは間違いのないこと。人類はその仕組みを理解しました。怖いから封印しようと考える人がいれば、そうでない人もいる。ただ僕には、まだ仕組みを知ったばかりなのでは? という思いがあって。いまは慎重に、その力と運用の仕方について考える段階ではないのでしょうか。

世界を見渡し、現実を直視すれば、核エネルギーを廃絶する方向にはいかないのだろうな、と思います。それは国内も同じ。経済偏重で政策を進めざるを得ない現在、日本では地域を支えるために原発再稼働や誘致の話が沸き起こる。そのことにはなにか痛みを伴うブルースのような感覚として、ある種の致し方のなさを感じてしまうのです。(次号後編に続く)

原子力の運用法は、 慎重に考える段階。