生産者のことを考え、本来の視点を取り戻す。
Takeshi Kobayashi
1959年山形県生まれ。音楽家。2003年に「ap bank」を立ち上げ、自然エネルギーの推進や、野外音楽イベントなどを開催。19年には食の循環を可視化するプロジェクトとして、木更津に循環型ファーム&パーク「KURKKU FIELDS」をオープン。20年9月には初の屋外イベントを開催。宿泊施設「タイニーハウスビレッジ」の稼働も始まった。
09
【フェアトレード】
FAIR TRADE
「ap bank」などの活動を通して環境問題に向き合うなど、サステイナブルな社会について考え、行動してきた小林武史さん。その目に、サステイナブルの行方はどう映っているのか。連載9回目のテーマは「フェアトレード」。フェアトレードで思い浮かぶのはコーヒーやカカオ、果物など。そのような商品を知ることも大切だが、「意義を正しく理解し、フェアトレードに向き合うと、ほかにも見えてくることがある」と小林さんは言う。

生産者のことを考え、本来の視点を取り戻す。

森本千絵(goen°)・絵 監修 illustration supervised by Chie Morimoto
オクダ サトシ(goen°)・絵 illustration by Satoshi Okuda
小久保敦郎(サグレス)・構成 composed by Atsuo Kokubo

僕がap bankを設立したのが2003年。その頃、フェアトレードに関心をもつ人が増えつつありました。先進国がフェアなバランスを伏せて途上国と取引しながら利潤を追求する。そんな経済優先で続けられてきた構造への反発です。僕もフェアトレードに注目していました。フェアでない連鎖は、めぐりめぐって僕らにも連鎖する。だからどこかでフェアなバランスを取るべきだと強く思っていましたし、その気持ちはいまも変わりません。

これまで、フェアトレードと同じような思いのプロジェクトに関わってきました。プレオーガニックコットンプログラムです。これは、正式なオーガニックコットンになる前の、橋渡しを助けるプロジェクト。オーガニックコットンの認証を得るためには、土壌から農薬を抜いたり、オーガニック農法を覚えたり、少なくとも3年の移行期間が必要です。そもそも農家はどう進めればいいかわからないし、移行中に収穫量が減る。それでもオーガニックコットンを目指したい生産者の背中を押す活動です。

オーガニック栽培を促進することは、農薬による土壌や水質汚染の改善につながります。それは、その地で生活するつくり手の健康も守ることになります。オーガニックに移行する間、僕らは生産されたコットンを買い取り、生地や綿製品に変える。彼らの労働をお金に替える過程をガラス張りにして進めます。フェアな状態で、よい連鎖を生み出していく。これはまさに、持続的な生活向上を支える仕組みです。

ビジネスは、ガラス張りでは成立しない。そう考える人も多いと思います。さらにフェアトレードを利用したビジネスもあるのではないか、と。それはフェアトレード認証に法的な基準がないのが問題という意見もあります。では法で規制すればいいかというと、そう簡単な話ではない。僕はトライ&エラーを重ねながらやり続けていくしかないと思っています。エラーがあるからやめるのではなく、やり続けること。やらなければ、フェアトレードの意義に正しく共感する人も増えません。

フェアトレードに向き合うことは、つくり手に思いを馳せると同時に、「価格」や「価値」を改めて見つめ直すことでもあります。コーヒーは安くておいしければいいのか。本当の価値は価格だけで判断できるのか。それは遠い国の話でなく、日本の農作物にも当てはまること。フェアトレードは「本来こうあるべきではという視点」を取り戻す希望を秘めています。

生産者のことを考え、本来の視点を取り戻す。