貴重なコレクションがボストンから来日! 江戸の浮世絵師、鈴木春信の名品を目撃せよ。

  • 文:坂本 裕子

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貴重な2枚が奇跡の邂逅です。左:鈴木春信 『見立玉虫 屋島の合戦』 中判錦絵2枚続のうち Bequest of Miss Ellen Starkey Bates, 28.19 Photograph Ⓒ Museum of Fine Arts, Boston / 右:鈴木春信 『見立那須与一 屋島の合戦』 中判錦絵2枚続のうち 個人蔵 ともに明和3~4年(1766~67)頃

やわらかいけれど鮮やかな色彩、精緻な空摺の技に浮かび上がる華奢で繊細な男女、四季折々の背景の中、若衆や可憐な娘の姿に漂う濃密な色気……。

江戸中期に、木版多色刷りの浮世絵である「錦絵」を創始したことで知られる浮世絵師・鈴木春信の作品は、静かで上品な魅力を湛えています。現在、葛飾北斎、喜多川歌麿と並び、最も高額で取引される浮世絵ともいわれる彼の作品は、錦絵完成後、すぐに没したため数が少なく、8割以上が海外で所蔵されています。なかでも質、量ともに世界一のコレクションを誇るボストン美術館から、選りすぐりの作品が来日しています。春信の展覧会は15年ぶり。国内で見られる機会が少ない作品の数々は、関連絵師たちの作品とともにその活躍を網羅しています。

会場は、錦絵誕生以前の色摺版画「紅摺絵(べにずりえ)」の作品をプロローグに、粋人たちの楽しみから生まれた絵暦や、褪せやすい紫色も残った錦絵、紙の厚みを活かして空摺を施した作品、春信を慕う絵師たちのエピローグまで、7つのテーマで彼の足跡をたどります。錦絵の開発にとどまらず、故事や文学から題を得た「やつし」や「見立て」を多用して好事家たちを喜ばせた教養高いものから、江戸の評判娘や名所を主題に浮世絵を大衆化することに貢献した身近なものまで、後の浮世絵の隆盛に貢献した彼の業績もたどれる構成です。

見どころは、さりげなく配された暦の数字を探し出す楽しみがある絵暦。そして、『屋島の合戦』の対作品の奇跡的な邂逅です。世界で1枚しか確認されていない『見立玉虫』と近年国内で2枚目が見つかった『見立那須与一』が併せて見られる千載一遇のチャンスなのです。「錦絵」に描かれた姿態が醸し出す、得も言われぬ色香を堪能してください。

桃の枝を手折る若い男女の姿は、一直線に結ばれたアイコンタクトに恋の予感を感じさせます。気もそぞろな若者の風情、ちょっと振り返る娘の足元にご注目。 鈴木春信 『桃の小枝を折り取る男女』 中判錦絵2枚続 明和3年(1766)頃 William Sturgis Bigelow Collection, 11.19448,11.19506

三島の玉川ではおなじみの和歌と描かれる、当地に因む砧打の当世風の図。由来を知ってこそ楽しめる文芸色高い一枚。 鈴木春信 『六玉川 擣衣の玉川』 中判錦絵 明和5年(1768)頃 William Sturgis Bigelow Collection, 11.19469

漆黒に浮かぶ若者と娘。菊泥棒の怪しい情感に物語が紡がれます。 鈴木春信 『寄菊 夜菊を折り取る男女』 中判錦絵 明和6-7年(1769-70)頃 Nellie Parney Carter Collection―Bequest of Nellie Parney Carter, 34.345

江戸の日常の作品。芸者のちらと見える足が色っぽく、子どもたちは楽しげ。 鈴木春信 左:『風流江戸八景 駒形秋月』 中判錦絵 明和5年(1768)頃 William Sturgis Bigelow Collection, 11.19500 / 右:『子どもの獅子舞』 中判錦絵 明和4-5年(1767-68)頃 William Sturgis Bigelow Collection, 11.19466

伝授されたのは美人画のお墨付き?歌麿が春信の後継を宣言したとされる一枚。 喜多川歌麿 『おきたとお藤』 大判錦絵 寛政5-6年(1793-94) William Sturgis Bigelow Collection, 11.19469

以上5点すべて Photographs Ⓒ Museum of Fine Arts, Boston

 ボストン美術館浮世絵名品展『鈴木春信』

開催期間:2017年9月6日(水)~10月23日(月)
開催場所:千葉市美術館
千葉県千葉市中央区中央3-10-8
TEL:043-221-2311
開館時間:10時~18時 ※金、土は20時まで、入場は閉館30分前まで
休館日:10月2日(月)
入場料:一般¥1,200※以下に巡回予定名古屋ボストン美術館:2017年11月3日(金・祝)~2018年1月21日(日)あべのハルカス美術館:2018年4月24日(火)~6月24日(日)福岡市博物館:2018年7月7日(土)~8月26日(日)
http://harunobu.exhn.jp/