ファッションに見る東西交流の精華「ファッションとアート 麗しき東西交流」展が貿易開港地YOKOHAMAで開催中!

  • 文:坂本 裕子

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展覧会の顔でもあるバッスルスタイルのドレスは、日本の小袖を仕立て直したもの。ボディスとオーバースカートで小袖一反分、アンダースカートは別布のものを組み合わせます。日本で若い女性を彩った華やかな小袖は、彼の地の女性を異なる魅力で輝かせたのです。 ターナー 「ドレス」 1870年代 京都服飾文化研究財団蔵 リチャード・ホートン撮影

1867年の大政奉還による江戸幕府終焉に先駆けること8年、世界に向けた開港地となった横浜は、外国人の居留地が作られ、西洋建築が立ち並び、洋装や洋食がいち早く上陸する、先駆的な近代化の街として発展しました。活気あるその様子は、明治期の浮世絵や流行していた写真にも描写されています。その面影はいまも残り、ちょっとレトロでファッショナブルなエリアとなっています。そこは西洋文化の受容だけではなく、生糸やお茶などとともに、漆器や陶磁器などの日本の工芸品が輸出される拠点でもありました。来日した外国人らが持ち帰る記録や情報と合わせ、日本文化の発信地でもあったのです。折しもヨーロッパは万国博覧会の時代。初めて目にする極東の文化の数々に魅了された西洋では「ジャポニスム」ブームが巻き起こり、その需要に応えるべく、日本では政府主導で輸出政策が強力に推し進められました。19世紀後半から20世紀前半に、西洋から日本へ、日本から西洋へ、互いに「異国」の文化に触れ、影響を受けて生み出されたものたち。それらを、ファッションを基軸にアートとともに観ていく展覧会が、まさにその開港地にある横浜美術館で開催中です。

京都服飾文化研究財団所蔵のドレスや服飾品およそ100点に、横浜美術館のコレクションや国内外から集められた絵画や工芸品とで構成された空間は、なによりマネキンに飾られた、美しく精緻、そして豪華なドレスやガウンが魅せてくれます。あるものはキモノの形態に西洋的な刺繍や織りがほどこされ、あるものは洋装のテキスタイルに和風の模様が採りいれられて、やがてそれぞれのデザインに溶け込んでいくのが見られます。それは、コルセットで腰を絞るものから、ゆったりとしたきもの風のシルエットへ、そしてアール・デコへとつながる直線的なデザインへと、女性を開放しつつ、その肢体の魅力を引き出す形へという変遷とも重なります。併せて展示される絵画や工芸品からは、こうした衣装に身を包む女性たちや街の風景が描かれ、花瓶やアクセサリーのモティーフが相互に活かされているのも確認できて、時代の空気と東西の交流の姿をより感じられる内容になっています。

日本と西洋、遠く海を隔てたふたつの地域で交わされた装いと文化の交流は、互いにその影響を繰り返し受容して、新しい美へと昇華していったのです。幸せな時代の、往復書簡のような、さざなみのような響き合い、ぜひその目で確認してください!

見どころの明治天皇の皇后が新年式に着用した大礼服。肩から着装するトレーンの長さはなんと3.3m! 萌黄色のベルベット地に、金、白、黄色、紫、ピンクの糸でさまざまな菊花が刺繍されています。スカートは絹サテンにバラの花が織り込まれ、ビーズ刺繍がほどこされ、息をのむ豪華さです。 左:「昭憲皇太后着用大礼服」 1910年頃(明治40年代) 共立女子大学博物館蔵 右:トレーン部分拡大

あでやかな薄紫の地にゴージャスな孔雀と桜の刺繍のきものは、室内着として西洋市場に輸出されたもの。襟をカーブさせ、身ごろはゆるやかに、脇もマチが入って、ゆったりとまとえるようになっています。まさに東西交流を象徴する一作は、高島屋の前身である呉服店が扱っていました。 飯田髙島屋 「室内着」 1905(明39)年頃 操上和美撮影

パリのオートクチュールのメゾンで作られた銀色に輝くイヴニング・ドレス。長短2種類のビーズの刺繍で日本風の波文様を浮かび上がらせ、スカート前部には黒白のビーズのフリンジも揺れて・・・。月の女神か水の精を思わせる驚嘆の美しさ。ストレートなシルエットはアール・デコの到来を予告します。 左:ベール 「イヴニング・ドレス」 1919年頃 京都服飾文化研究財団蔵 林雅之撮影 右:ドレーン部分拡大

横浜に窯を持ち、花鳥や小動物を高浮彫で立体的に表す華やかな意匠で、欧米人の人気を博した香山の作品は、桜の枝に戯れる鳩が生きているよう・・・。一方、宝飾工芸家のラリックは、日本の型紙を参照したと思われる透かしの菊花を、七宝と金細工であでやかに仕上げました。 左:初代 宮川香山 「高浮彫桜ニ群鳩大花瓶」 明治前期 田邊哲人コレクション(神奈川県立歴史博物館寄託) 右:ルネ・ラリック 「チョーカーヘッド《菊》」 1900年頃 箱根ラリック美術館蔵 近藤正一撮影

失われゆく江戸の風情と近代の新しい美を女性像に託した清方。婚礼前の令嬢と友人の華やかな集いは、きものや帯のアール・ヌーヴォー風の蝶や孔雀、燕の紋様が、当時の流行を伝えます。フランスではジャポニスムブームの中、きもの姿の女性像が多く描かれました。半開きの扇を唇に当てるしぐさは「私にキスして」のメッセージなのだとか。 左:鏑木清方「嫁ぐ人」1907(明治40)年 鎌倉市鏑木清方記念美術館蔵 ※5月20日からの展示 右:ジュール=ジョゼフ・ルフェーヴル 「ジャポネーズ(扇のことば)」 1882年 クライスラー美術館蔵 Gift of Walter P. Chrysler, Jr.

「ファッションとアート 麗しき東西交流」展

開催期間:~6月25日(日)
開催場所:横浜美術館
神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1
開館時間:10時~18時(5/17は20時30分まで、入館は閉館30分前まで)
休館日:木曜
TEL:045-221-0300
入場料:¥1,500

http://yokohama.art.museum