自然の「叫び」を描き出した画家。

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    『ムンク展−共鳴する魂の叫び』

    東京都美術館

    自然の「叫び」を描き出した画家。

    赤坂英人美術評論家

    『叫び』1910年? オスロ市立ムンク美術館所蔵。

    『病める子Ⅰ』1896年。オスロ市立ムンク美術館所蔵。
    ムンクの「叫び」という作品は、版画を除くと4作品が現存していて、今回の展覧会に出品されたテンペラ・油彩で描かれた『叫び』は初来日。ナチスは彼の絵に「頽廃芸術」の烙印を押したが、晩年、ムンクは祖国の国民的画家となった。1944年没。

    近年、印象派の後に続く世代、ポスト印象派ともいえる画家たちにスポットライトが当てられている。たとえば、オルセー美術館での回顧展が話題となったピエール・ボナールや、20世紀初頭のフォーヴィスムや表現主義の先駆者として独自の色彩感覚を発揮し、世界的に有名な「叫び」を描いたエドヴァルド・ムンクなどだ。そのムンクの代表作である『叫び』を含む約100点の作品で構成された大回顧展が、東京都美術館で開催されている。  
    ムンクは1863年、ノルウェーの聖職者や知識人などを輩出した由緒ある家系に生まれた。彼は幼い頃から病弱で、母や姉の死を少年時代に経験する。「病と狂気と死が、私の揺りかごを見守る黒い天使たちだった」と、ムンクはのちに語っている。  
    画家を目指した彼はパリやベルリンで、象徴主義をはじめ、19世紀末の最先端の思想や芸術に出合った。ムンクは生と死、愛や不安をテーマとした「生命のフリーズ」という連作を描き始める。その中から「叫び」が生まれた。  
    一般的には、あの絵の中央に描かれた人物が叫んでいると思われることも多いが、絵の作者であるムンクは次のような言葉を残している。「夕暮れに道を歩いていた。一方には町とフィヨルドが横たわっている。私は疲れていて気分が悪かった―立ちすくみフィヨルドを眺める―太陽が沈んでいく―雲が赤くなった―血のように。私は自然をつらぬく叫びのようなものを感じた―叫びを聞いたと思った。私はこの絵を描いた―(中略)色彩が叫んでいた」
    『叫び』とは北欧の自然をつらぬく叫びと、内的体験を秘めたムンクの叫び、そして色彩の叫びが重層する世界だ。すると、絵に描かれた人物は、こうした叫びを耳にした私たちの肖像なのではないだろうか。

    『ムンク展−共鳴する魂の叫び』
    開催中~2019/1/20 東京都美術館
    TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル) 
    開館時間:9時30分~17時30分(金曜は20時まで) ※入館は閉館の30分前まで 
    休館日:月(11/26、12/10、12/24、2019/1/14は開館)、12/25、12/31、2019/1/1、1/15
    料金:一般¥1,600(税込)
    https://munch2018.jp