重なり合う生と死の中で、揺れ動く魂を目撃する。

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    『塩田千春展 : 魂がふるえる』

    森美術館

    重なり合う生と死の中で、揺れ動く魂を目撃する。

    川上典李子エディター/ジャーナリスト

    『不確かな旅』2016年 プレイン|サザン(ベルリン)。撮影:Christian Glaeser

    糸で約150艘の舟を浮かべた『どこへ向かって』2017年 ル・ボン・マルシェ(パリ)。撮影:Gabriel de la Chapelle

    燃えたグランドピアノと椅子を糸が覆う『静けさの中で』2008年 バスクアートセンター(ビエンヌ)。12年前に治療した癌の再発を公表した塩田は、「死と寄り添いながら」制作を続ける。撮影:Sunhi Mang

    「私の儀式をするような気持ちでアートと取り組む」と語る塩田千春。一貫したテーマは「不在のなかの存在」、誰かがいたかのような記憶の部屋だ。

    生と死が重なり合うことを感じさせる意欲的な作品は、「ミステリアスでポエティック」と高く評価されている。 1972年大阪に生まれ、99年よりベルリンに拠点を移した。ドイツの美術大学では、自身の身体を過酷なほどの表現手段とするマリーナ・アブラモヴィッチに師事。浴室で泥水を浴び続けたパフォーマンス作品もある。

    泥と言えば「洗っても落ちない皮膚からの記憶の表現」として、泥水が滴る12mの巨大ドレスを横浜トリエンナーレ(2001年)に出展し、人々に深い印象を残した。旧・東ベルリンの住居の木製窓枠を千近くも収集し、それをもとに組み上げた『内と外』も代表作に挙げられる。そして、近年の塩田の作品を考える上で、重視すべきひとつは「糸」であろう。塩田は言う。

    「糸で記憶を拾う。出てきたものが、自分の中の唯一のリアリティです」

    黒い糸で埋め尽くした部屋に無機質なベッドを何十台も配する作品や、焼けたピアノを糸で包んだ作品、靴など人の痕跡や記憶を内包する作品もある。

    15年のベネツィア・ビエンナーレ日本館での展示は古い舟と数万もの鍵。ここでの糸は赤。血液のようでもあり、人と人との関係の象徴だ。漂う死の気配や闇の奥に、光が宿る。

    圧倒的なエネルギーに包まれた塩田の創造力を、20年におよぶ活動を通して紹介する展覧会が開幕する。約1 00艘の舟や糸で埋め尽くされた空間など、大規模インスタレーション6作品の他、映像や写真で構成。塩田はこの個展を「裸になった私の魂との対話」と述べた。生と死、人生の旅路、言葉にならない感情など、層を成して揺れ動く、「生」に対峙し続ける作家の精神が、強く伝わってくる。

    『塩田千春展 : 魂がふるえる』
    6/20~10/27
    森美術館
    TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
    開館時間:10時~22時(火曜は17時まで) ※入館は閉館の30分前まで
    会期中無休
    料金:一般¥1,800(税込)
    www.mori.art.museum