北斎の驚異的な画業の全容を知る。

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    『新・北斎展 HOKUSAI UPDATED』

    森アーツセンターギャラリー

    北斎の驚異的な画業の全容を知る。

    赤坂英人美術評論家

    世界的に最も知られた日本の画家といえば、江戸時代後期を生きた葛飾北斎であろう。その北斎の初公開作品を含む約480点で構成された『新・北斎展』が人気を博している。
    北斎が描いた『神奈川沖浪裏』が作曲家クロード・ドビュッシーにインスピレーションを与えたとか、「北斎漫画」が19世紀ヨーロッパのジャポニスムのきっかけとなったことはよく語られている。だが、北斎の魅力はそれだけではない。1760年、江戸の端に生まれた彼が、勝川春朗と号して役者絵を描き、宗理と号して肉筆画や狂歌絵本の挿絵を、葛飾北斎と号して曲亭(滝沢)馬琴らの読本挿絵を描いたことなど、最晩年までの多彩な画業を網羅したのが本展だ。
    70歳を超えて為一と号して描いた『冨嶽三十六景』のシリーズは、じっくりと見たい作品ばかりだ。さまざまな場所や角度から見る富士山の情景を描いた作品は、何度見ても飽きがこない。なかでも、「グレイト・ウェーブ」と称される『神奈川沖浪裏』の図は、別格中の別格。盛り上がり巨大な波となった青波がいまにも砕け散らんとする一瞬、波に翻弄される船に乗り、まさに波に飲まれて海の藻屑となるかという絶望的な人々の姿と、その光景を超然と眺めているような奥に控えた富士山。そして美しいグラデーションの濃淡を見せる青い海。それらが絶妙のバランスで構成された図は、アンリ・カルティエ=ブレッソンがカメラで捉えた「決定的瞬間」のようだ。またそれは、歌舞伎役者たちが劇中で生死を賭ける見せ場であり、劇的要素が交差し、頂点に達するクライマックスだ。そこには、当時の歌舞伎や馬琴の読本など、爛熟した江戸文化の劇的想像力に精通した北斎の天才的な視点が存在したのである。

    『新・北斎展 HOKUSAI UPDATED』
    開催中~3/24
    森アーツセンターギャラリー
    TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
    開館時間:10時~20時(火曜は17時まで) ※入館は閉館の30分前まで
    休館日:3/5
    料金:一般¥1,600(税込)
    https://hokusai2019.jp