帆をイメージしたファサードは2枚のガラスを組み合わせ、そこにファブリック調のプリントを施した特殊な設計で、店内に優しい光を取り込んでくれる。吹き抜けになった1、2階はその心地よさを実感させてくれる開放感のあるつくりだ。手前左、4脚のチェアとともに置かれたコーヒーテーブルはベルリンのアーティスト、アントン・ストイアノフの作品。天板から覗く、凝った意匠となっている。
内装デザインを手がけたのは、フランスで芸術の発展に貢献したものに与えられるレジオンドヌール勲章シュバリエ級の受勲をはじめ、多方面で絶賛されるアメリカ人建築家のピーター・マリノ。1階から4階はリテールスペース、5階は不定期で催しなどが行われるイベントスペース、最上階の7階にはルイ・ヴィトンの店舗では世界初となるカフェとレストランが併設されている。
店内の什器は特注の1点モノからシャルロット・ペリアンのサイドボードや坂倉準三のチェアなどの貴重なヴィンテージまでさまざまで、フルラインアップが揃う圧巻の商品同様に見どころが満載。
1階は主にウイメンズやファインジュエリー、ウォッチ、フレグランスなどを中心とした展開で、パートナーや家族と一緒に楽しめそうだ。
2階奥にはペインターが常駐していて、パーソナライゼーションの工程を間近に見ることができる。トランクやラゲージが並ぶラックの一部には、タイの作家が手作業でロープを編み込み制作したというインスタレーションも。メゾンのルーツである船を想起させる粋なアプローチだ。
熟練したペインターによる、精緻な筆触が美しい。イニシャルから写真をもとにしたアートペイントまで、細かいオーダーを直接相談できるのも魅力。
ウイメンズのバッグなどのレザーグッズやホーム・コレクション「オブジェ・ノマド」を展開する2階には、ペインティングのデモンストレーションが見られるブースを常設。購入したお気に入りのアイテムを自分だけの仕様にカスタムできるサービスには大人も高揚するはず。
レザーグッズの一部にはホットスタンピングによるイニシャルの刻印も可能だ。オブジェ・ノマドは国内でも実際に見て触れられる店舗が限られているので、同店に足を運んだ際にはぜひお目にかかりたいところ。
3階は、ウイメンズのレディ・トゥ・ウエアを扱うフロア。最新のコレクションピースからシューズまで、品揃えの豊富さは国内屈指だ。
メンズを扱う4階は、同店の中でも最大の売り場面積を誇る。最新の2020年春夏メンズコレクションをはじめ、プレタポルテのほぼすべてのラインアップが揃うため、メンズ アーティスティック・ディレクター ヴァージル・アブローの描く世界観をよりはっきりと感じられる。
奥にはフォーマル・ラインのウエアとシューズが並ぶ、サロンルームが併設されている。ドイツ人作家のグレゴール・ヒルデブラントが大阪港の波をイメージして制作したという大きなアート作品は、よく見るとタイル状のピースから成り、実はそのすべてがアナログレコードをカットしたものだ。
リテールスペースとしては最上階にあたる4階がメンズフロア。木製のランタンや家具の一部は木製家具のパイオニアで、その作品がスミソニアン博物館や東京国立近代美術館にも所蔵されている家具デザイナー、ジョージナカシマのもの。特にランタンは、店舗全体の内装デザインの根本的なインスピレーション源になったという逸品だ。
カンファレンススペース横に飾られた、グラフィティのようなアートピースを手がけたのはNYを拠点とするアーティスト、ディヴィッド・リード。ラグジュアリーメゾンでありながら、ヴァージル・アブローのルーツであるストリートのエッセンスも覗かせている。建築家、青木淳の手がけた外装は水面に浮かぶ船をイメージしたものだが、ピーター・マリノによる内装もまた、そんな青木のアイデアに呼応したもの。さながら豪華客船のようなスペースが、特別なひとときを過ごすにはあつらえ向きといえる。
あえて作家やテイストを統一せずに古今東西の多彩な家具や什器を揃え、ひとつの空間をつくり上げているのが面白い。プライウッド製のチェアは米国のコンテンポラリーアーティスト、ジェフ・ムースによるデザイン。