Feature Culture 彼らはなぜミュージシャンに愛されるのか? 曽我部恵一の視点。【ザ・バンドの魅力を探る。Vol.2】

彼らはなぜミュージシャンに愛されるのか? 曽我部恵一の視点。【ザ・バンドの魅力を探る。Vol.2】

文:岡村詩野 写真:吉場正和

10月23日(金)から公開が始まる『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』は、60~70年に活動したロックバンド、ザ・バンドの軌跡をたどるドキュメンタリー映画。ミュージシャンからいまも崇拝される“ミュージシャンズ・ミュージシャン”であるレジェンドについて、高校時代に彼らに魅了されたというサニーデイ・サービスの曽我部恵一に話を聞いた。

彼らはなぜミュージシャンに愛されるのか? 曽我部恵一の視点。【ザ・バンドの魅力を探る。Vol.2】

高校時代にザ・バンドの音楽と出合い、すぐに好きになったという曽我部。取材は曽我部がオーナーを務めるピンク・ムーン・レコーズで行った。

今年春、サニーデイ・サービスのニューアルバム『いいね!』をリリース。同じ頃、オーナーとして東京・下北沢に「カレーの店・八月」と、中古レコード店「PINK MOON RECORDS(ピンク・ムーン・レコーズ)」を開店、秋以降は感染対策を施したうえでのイベントへの出演も積極的だ。コロナ禍以降もいつになく精力的に活動している曽我部恵一はいま、ミュージシャンとしてだけではなく、ひとりの人間として最も脂が乗っている人物だと言っていい。


そんな曽我部に、映画『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』を巡って語ってもらった。彼は高校時代からザ・バンドが好きだし、いまや中古レコードショップのオーナーとしてザ・バンドの作品を取り扱うこともある。しかも、今回の映画さながらに、メンバー同士の絆や仲間同士のぶつかりあいなど、バンド活動で同じように辛酸を舐めてきた過去もある。だが、それ以上に筆者が曽我部への取材を希望したのは、この映画の劇中、穏やかで生き生きとした表情を見せる現在のロビー・ロバートソンのように、曽我部もまた生き生きと泥臭く生きているからだ。


この夏、曽我部はソロ名義での新曲「永久ミント機関」「戦争反対音頭」も発表している。特に「戦争反対音頭」におけるユーモラスなメッセージは、子どもを育てながら40代最後の年齢を迎えたいまだからこそリアルに伝わってくる。彼のなかで音楽は単なる音楽ではなく、たくましくも繊細に生きること、生活することそのものなのだろう。そして、その象徴こそがザ・バンドなのかもしれない。


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『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』の主役である、ザ・バンドの面々。右からふたり目が、映画の原作である自伝を著したロビー・ロバートソン。photo : (c) Robbie Documentary Productions Inc. 2019

――ザ・バンドを最初に聴いたのはいつのことですか?


曽我部恵一(以下、曽我部):高校生になった頃かな。わりとすぐ好きになりました。メロディもいいしハーモニーもいいし、サイケデリックな感じもあって。ちょっと南北戦争の頃をイメージさせる服装だったりもして見た目は渋い印象かもしれないけど、ジョン・サイモン(*1)がプロデュースしていたということもあって、音楽そのものはソフト・ロック~ソフト・サイケみたいな感じで聴いてました。僕もまだ10代だったから、アメリカのカルチャーとか歴史みたいなところをあまり理解してなかったけど、ボブ・ディランを聴くより先にザ・バンドを好きになりましたね。


(*1)ジョン・サイモンはコネチカット州出身のプロデューサー、コンポーザー、ミュージシャン。レナード・コーエン、ジャニス・ジョプリン、サイモン&ガーファンクルなどの作品のプロデュースで知られる。


――なにがきっかけだったのでしょう。


曽我部:やっぱりレコード屋さんとかだったかな。1stの『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』(1968年)を手に取ったんです。あのジャケの絵をボブ・ディランが描いたとも知らずに、稚拙な絵なんだけど、親密な感じがするピンク色の家……それがすごく気になって買いました。ビートルズとかのように一聴してすぐポップって感じはなかったんだけど、逆にずっと聴いていられる感じがして、高校時代はいちばん好きなバンド……くらいその1stと2nd(1969年リリースの『ザ・バンド』)の2枚は何度も何度も聴いていましたね。よくガイドブックにはスワンプ・ロック(*2)とかサザン・ロックみたいな風に書かれてたけど、僕は最初、曲そのもののよさに惹かれていた気がしますね。


(*2)ルイジアナ州南部~テキサス州東端の南部で生まれた音楽。スワンプは沼地、湿地の意味。


――では、曲のよさ以外の魅力に気づいたのは?


曽我部:映画にもなった『ラスト・ワルツ』(1978年、*3)ですね。先にアルバムを聴いたんですけど、ボブ・ディランやニール・ヤング、ヴァン・モリソン、ジョニ・ミッチェル、マディ・ウォーターズ……そういうアーティストたちをつなぐ、触媒としてのバンドというか。そういう魅力があるんだということにあの最後のアルバムを聴いて思ったんです。バックバンドにもなれるんだっていうね。そこは新しい魅力のように感じました。その後、はっぴいえんどを聴いて、やっぱり彼らも岡林信康とかいろんなアーティストのバックをやったりしてるのに気づいたり。そういう職人的な側面がザ・バンドにはあるんだって……そこは大きかった気がするな。ロックスターでもあるしバックミュージシャンでもあるという。でも器用な人たちなのに、曲は決して器用に作られた曲じゃない。それがカッコよかった。『ラスト・ワルツ』を聴いて特にそれは感じましたね。


(*3)1976年11月にサンフランシスコで開催されたラストコンサート。9枚目のオリジナルアルバムと発売され、マーティン・スコセッシ監督の手でドキュメンタリー映画にもなった。

彼らはなぜミュージシャンに愛されるのか? 曽我部恵一の視点。【ザ・バンドの魅力を探る。Vol.2】

ザ・バンドの黎明期、彼らを前座に据えてツアーを回ったボブ・ディラン。ザ・バンドの解散コンサート「ラスト・ワルツ」にも出演した。photo : (c) Robbie Documentary Productions Inc. 2019

――ザ・バンドはメンバーそれぞれが曲を書いて歌える強みもありましたが、そこはどう捉えていましたか。


曽我部:僕、そこはあまり気にしたことないんですよ。キャラクターは立ってますけど、バンド全体としての調和がある。たとえばジョン・レノンとポール・マッカートニーのような感じじゃない。ザ・バンドはどのメンバーもザ・バンドなんですよね。もちろん、ちゃんと分析すれば「この曲はリチャード・マニュエルっぽいな」みたいな違いがハッキリあるんだけど、どの曲を聴いても“ザ・バンド・サウンド”というか、“ザ・バンドの曲”になっている気がするんですよね。この映画(『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』)のなかでも曲の作り方について描かれた場面がありますけど、みんなで作っているって感じがしますよね。「これは誰かの曲」という感じじゃないんです。


――ソングライターそれぞれがエゴを出していないよさがありますね。


曽我部:そうそう。エゴイスティックな音楽じゃない……そのよさはありますよね。家族的な親密さというか。「俺の作った曲をやろうぜ」って感じじゃない。そこがすごく新しかったんじゃないかな。映画を観てもわかるように、メンバーで一緒にウッドストックに住んでたりしたわけでしょ? それによって、ただ曲を作るだけじゃなくて、どういうところから曲が発生してくるのかっていうことを実験していたんじゃないかな。ある種社会的な実験の在り方だったのかなって気がしますね。


――バンドをやっている曽我部さんとしては、そうやってメンバー一緒に生活をするスタイルにはある種の憧れがありますか?


曽我部:う~ん、どうだろうなあ……。まあ、あの時代だからできたことっていうのもありますよね。あと、実際に一緒に暮らして調和が取れていたのってすごく短い期間だったと思うんですよね。短かったからできたことかもしれない。でも、活動期間中にビックリするような変化を遂げたバンドでもなかったと思うんですよ。むしろ、ひとつのサウンドを守り抜いたバンドって感じですよね。


でも、本当は大好きなのにメンバー間でちょっとギスギスしちゃったり距離が空いちゃったりとか、誰かがお酒とかドラッグに溺れていったりとか、誰かがそれを見ててもどうしようもなかったりとか、ロビー・ロバートソンが彼女を連れてきてラブラブになっちゃったのを見たり……バンドがすべてじゃないんだ?っていう(笑)。そういうことってバンドをやってると起こりうるし、誰もが経験することだと思うんですよ。特に、お金のトラブルが元で人間関係が崩れちゃう。映画でも描かれたあの場面は、バンドマンなら誰が見ても「だよなあ……」って思うんじゃないかな。そういう意味ではすごく身近な感じがしましたね。

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