NETHERLANDS オランダ

オランダの若いアーティストが、1960~1970年代のスペースエージを彷彿とさせる、宇宙船内部のセットを一人で作り上げた。白を基調にした八角形の無機質なスペースに、さりげなく加えられた個人的ディテールが温かさを感じさせる、出色の出来栄えとなっている。

感情を目に見える形に アートを作る理由
『Birch』と名付けられた実物大の宇宙船内部を制作したのは、24歳の芸術家、アベル・ファン・オールスホット。彼は複数の異なる芸術分野や表現媒体を横断して活動するマルチディシプリナリー・アーティストで、これまではプロダクションデザイン、写真、イラストレーションを通じて、非現実的で映画のような世界を作り出してきた。彼の描いたイラスト作品は、ビリー・アイリッシュなど有名アーティストからも高い評価を受けている。
アベルは、頭のなかで心的イメージ(心の中で体験する感覚)を視覚化することが困難な特質「アファンタジア」という状態にある。例えば、「リンゴがどういうものか」という知識はあり、言葉で説明することは問題なくできるが、リンゴの赤い色や形を視覚的に頭のなかで描くことができない。そのため感情を具体的なもの、目に見える形へと変換する手段として、アートを制作しているのだという。

お手本はレトロな宇宙映画 手作りの宇宙船完成!
宇宙船の内部は、すべて手作りだ。制作に先立ち、段ボール製の模型をいくつか作り、ムードボード(デザインやコンセプトを視覚的に共有するための資料)にまとめた。全体的な方向性については、1960年代後半から1970年代初頭のSF映画、特に『2001年宇宙の旅』と『惑星ソラリス』から多大なインスピレーションを受けたという。この時代はスペースエージと呼ばれ、宇宙開発競争への憧れを背景にした独特の世界観を持つデザイン様式が誕生した時期でもある。
制作場所となったのは、なんと自宅のリビングルーム。2週間強で仕上げたが、この規模のセットを作るのは初めてだったため、試行錯誤の連続だったという。大部分は木材、発泡スチロール、段ボール、そして再利用した古い電子機器を使って作られた。木製の骨組みにパネルを貼り、下地が完全に消えるまで丁寧に塗装。小さな金具やハードウェアなどを配置した後、ほぼ完ぺきな対称性を生み出す八角形の白い宇宙船の内部が完成した。
一見すると冷たく無機質な印象の内部に温かみを加えたのはセットの装飾だ。私物に加え、ヴィンテージショップから借り受けた1960年代のデザインアイテムを使って仕上げており、アベルが最も気に入っている部分だという。
今後はより多面的な活動へ 進化する24歳
実は『Birch』は、アベルにとって深い疎外感と孤立感に苛まれた時期を振り返るための作品だった。たとえ最も深い孤独の瞬間であっても、自分の空間を飾り、優しさというご褒美を自分に与えたいという強い欲求を象徴したものだったという。
アベルはアムステルダムを拠点とするアマルテ財団から助成金を得て、この作品を制作した。財団は革新的な新進アーティストに対し、経済的支援を行い、比較的小さな規模のプロジェクトにも助成金を提供しているという。
イラストレーションからクリエイティブな道を歩み始めた彼だが、その後コミュニケーション科学の修士課程に進んだことにより、コンセプトの考案から制作、プレゼンテーション、コミュニケーションに至るまでプロジェクトの全サイクルへの関心を持つにいたったという。現在活動の幅は彼自身の創作の外へも広がりつつあり、今後の活躍が多いに期待される。
参考:アベル・ファンオールスホット ホームページ
本人提供バックグラウンド・ノート
Webライター
早稲田大学第一文学部卒業。レコード会社に勤務した後に渡米し、コミュニケーション学の修士号取得。米ノースウエスト航空機内誌の編集を経て、日本航空の機内エンターテイメントの選定買付に携わる。夫の転勤で通算9年の東南アジア滞在後、帰国して世界のニュースを紹介するライターに。現在は関西の片隅で、仕事の合間にフランス語学習に奮闘中。
早稲田大学第一文学部卒業。レコード会社に勤務した後に渡米し、コミュニケーション学の修士号取得。米ノースウエスト航空機内誌の編集を経て、日本航空の機内エンターテイメントの選定買付に携わる。夫の転勤で通算9年の東南アジア滞在後、帰国して世界のニュースを紹介するライターに。現在は関西の片隅で、仕事の合間にフランス語学習に奮闘中。






