【マリー・アントワネット展の見どころ】233年ぶり世界初公開、王妃が故国へ託した「天然真珠の首飾り」

  • 文&写真:はろるど
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フランソワ=ユベール・ドルーエ『コートドレスのマリー・アントワネット』1773年 ヴィクトリア&アルバート博物館 正式な宮廷衣裳を身にまとう17歳頃のアントワネットが描かれている。

フランス国王ルイ16世の王妃として宮廷に君臨し、革命の激動のなか断頭台に散ったマリー・アントワネット。その生き様が刻んだスタイルの軌跡と、後世への影響をたどる展覧会が、横浜美術館にて開催されている。18世紀後半の宮廷ファッションから最新のオートクチュールまで、ドレスやジュエリー、家具調度品、絵画など約200点が並ぶ会場の見どころをお伝えしたい。

慣習への挑戦から生まれた、王妃のスタイル 

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ローブ・ア・ラ・ポロネーズ  フランスあるいは英国製 1775〜80年 ヴィクトリア&アルバート博物館 クリーム色のシルク・タフタのガウンは、内側の紐でスカートが3つの襞をつくるようにたくし上げて着用された。

14歳でフランス王太子妃として輿入れしたアントワネットは、銀色に輝くウェディングドレスで華やかに宮廷へデビューすると、その装いは20年にわたり人々の注目を集めていく。当時のフランス宮廷では服飾に関する規定が厳格に定められていたが、彼女は堅苦しい慣習に挑み、伝統を新しいものへと変えていった。そして諸外国やパリの最新流行を取り入れると、斬新なスタイルが国内外で大きな人気を獲得した。

ローブ・ア・ラ・ポロネーズは、アントワネットが非公式の装いとして取り入れたスタイルのひとつで、ヴェルサイユでは宮廷女性たちの定番の一着となるほど流行する。また一際美しい天然真珠とダイヤの3連ネックレスは、アントワネット旧蔵の貴重なもの。自らの運命が変転しつつあることを悟った彼女は、宝飾コレクションを密かに故国オーストリアへ運ばせる。今回そのうちの1点であるネックレスが、王妃の死から233年を経て、世界で初めて公開された。

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マリー・アントワネット旧蔵の天然真珠とダイヤモンドの3連ネックレス 18世紀後半 ハイディ・ホルテン・ コレクション、ウィーン

悪評の渦中で起きた、「首飾り事件」 

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通称「サザーランド・ダイヤモンド」 オリジナルのネックレス:フランス製 1780年代に加工 ヴィクトリア&アルバート博物館

1780年代、社会不安が高まるなか、アントワネットの人気は陰りを見せ、悪評の的となっていった。彼女の装いや生活スタイルもまた「贅沢の象徴」とされ、時に事実よりも想像が先行し、国に禍をもたらす元凶とまで見なされるようになった。その渦中で起きたのが「首飾り事件」である。廷臣ロアン枢機卿が王妃の名を騙る詐欺師に欺かれ、高額なダイヤの首飾りを巡って多額の借金を負った。アントワネット自身は事件に無関係であったものの、王妃を浪費家とみなす悪評をさらに広める結果となった。

この首飾りの一部と伝わる、通称「サザーランド・ダイヤモンド」が眩いばかりの輝きを放っている。渦中の首飾りは騒動のさなかに盗まれ、売却のためにイギリスへと渡った。インドのゴルコンダ産とされる石は、中央の一粒だけでも約15カラット。歴代のサザーランド公爵夫人が継承し、ヴィクトリア女王からジョージ6世の時代まで約100年にわたり、形を変えながら戴冠式の際に身につけられてきた。

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断頭台の先に受け継がれた、様式としての「アントワネット」

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ジャンヌ・ランバン イヴニングドレス「ローブ・ド・スティル」  1922〜23年頃 ヴィクトリア&アルバート博物館

アントワネットの首を刎ねたとされるギロチンの刃が、大きな金属片として静かに横たわる。革命の熱狂と断頭台の記憶を伝えるその重みを感じたあと、彼女が遺したスタイルの行方をたどる章へと移っていきたい。アントワネットに強い憧れを抱いていたのが、ナポレオン3世の后ウジェニー。アントワネットと同様に宝石を愛し、釣鐘状に広がるクリノリン・スタイルを流行らせ、ファッションリーダーと呼べる存在になった。

このウジェニーが1866年にテュイルリー宮殿で見せた彼女の仮装は、単なる一過性の流行にとどまらず、アントワネット様式のコートや首飾り、マントへの熱狂を巻き起こした。またアール・デコ期のクチュリエもアントワネットのファッションを参照し、ランバンは彼女のシュミーズドレスを転じたイヴニングドレスを手がけた。1925年にはファッション誌『ヴォーグ』において、彼女の名前は「美しいドレスや驚くような髪型を連想させる」ものとして紹介されている。

現代のクリエイターが見つめ続ける、永遠のミューズ

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キルスティン・ダンストが着用したドレスなどが並んでいる。デザイナーのミレーナ・カノネロは、18世紀の雅宴画とコッポラからもらったマカロンの箱に着想を得て、時代考証と現代性を融合。若くスタイリッシュな王妃像を生み出すことに成功した。※「マリー・アントワネット・スタイル」展示風景(横浜美術館、2026年)

アントワネットのスタイルにインスピレーションを受けた、現代のクリエイターたちの仕事にも目を向けたい。ソフィア・コッポラ脚本・監督の映画『マリー・アントワネット』は、ポップミュージックや色とりどりのマカロンなど、18世紀の宮廷に「現代」を織り込んだ構成が話題になった作品。ミレーナ・カノネロが第79回アカデミー賞で衣裳デザイン賞を獲得したが、主演のキルスティン・ダンストが着用したスタイリッシュなドレスも展示されている。

ジェレミー・スコットの手がけた『ケーキドレス』(モスキーノ2020-21秋冬コレクション)も遊び心にあふれている。アイシング装飾とパステルカラーのスポンジケーキを思わせるドレスは、18世紀のスタイルを現代の表現に接近させていて、ポップな味わいが楽しい。これらの作品を見ていくと、ファッション、デザイン、映画、また音楽まで、ジャンルを超えて才能を刺激し続けるアントワネットは、250年を経てなお色褪せぬミューズだと感じられるのだ。

『マリー・アントワネット・スタイル』

開催期間:開催中〜2026年11月23日(月・祝)
開催場所:横浜美術館
神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1
開館時間:10時~18時(11月21日・22日は20時まで)
 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:木(9/24、11/19は開館)
観覧料:一般¥2,500 他
www.marie2026.jp

はろるど

アートライター / ブロガー

千葉県在住。WEBメディアを中心に、アート系のコラムや展覧会のレポートを執筆。日々、美術館や博物館に足を運びながら、作品との出会いや発見をSNSにて発信している。趣味はアートや音楽鑑賞、軽いジョギング。そしてお酒を楽しむこと。

はろるど

アートライター / ブロガー

千葉県在住。WEBメディアを中心に、アート系のコラムや展覧会のレポートを執筆。日々、美術館や博物館に足を運びながら、作品との出会いや発見をSNSにて発信している。趣味はアートや音楽鑑賞、軽いジョギング。そしてお酒を楽しむこと。