【軽井沢のセゾン現代美術館が再始動】革新の創造者たちが時代を超えて紡ぐ、その新たな魅力

  • 構成・文:古泉洋子 
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庭園にもイサム・ノグチ他、15点以上の作品を屋外展示。撮影:加藤健

1981年から緑豊かな軽井沢の地に居を構える「セゾン現代美術館」。2年の歳月をかけて改修を行い、45周年を迎える今夏、リオープン。この美術館の開館当時は珍しかった現代アートをいち早く収蔵し、時代に先駆けた。その進取の精神を継承した今回のアップデートの目的は、より豊かな体験価値の提供。価値あるヘリテージを活かしながら、一部の施設機能を新たに。昨今、とかくアートを頭で理解しようとする向きが多いなか、まず“心で感じてほしい”と考えている点も特徴だ。この美術館を特別なものへと昇華した、革新の創造者の視点から魅力を紐解いていく。

伝説の創設者、堤清二が愛した、現代アートの殿堂

 

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巨匠、田中一光によるエントランスのロゴもオープン時のもの。撮影:牧口英樹

前身の高輪美術館を軽井沢に移し、現在の「セゾン現代美術館」への道筋をつけたのがセゾングループの創業者、堤清二。70~80年代にかけて一世を風靡した、セゾンカルチャーの生みの親である。パルコ、無印良品と、今なお誰もが知る存在も堤によるものと聞けば、その影響力がわかるだろう。父から受け継いだ新興の西武百貨店に、エルメス、サンローランといったラグジュアリーブランドを先手を打って招聘。そして店内に美術館などの文化施設を設け、自身も辻井喬のペンネームで作家活動を行うなど経済と芸術を融合した。田中一光、糸井重里ら、才能あるクリエイターたちを起用することで新しい価値観を提唱し、一時代を築く。今も息づくマニフェストは「美術館は常に時代精神の根拠地であれ」。この館には現代アートを愛し、先鞭をつけた堤自身の革新の思想がある。

堂々たる存在感を放つ建築美 レジェンド、菊竹清訓の仕事

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菊竹清訓による美術館の外観。撮影:瀧本幹也 Courtesy of MT Gallery

堤が建築を依頼したのは、日本を代表する建築家のひとり、菊竹清訓。今春リニューアルされた江戸東京博物館などを生み出し、メタボリズム運動で知られる。「セゾン現代美術館」は、標高1,000m近くの軽井沢、千ヶ滝の自然豊かな環境を活かした建築だ。庭園をゆっくりと進むと奥深くに見えてくる、美術館は、数寄屋造りを思わせる低層の重厚な佇まい。懐豊かな落ち着きと風格を称えている。

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エントランスは自然素材を活かして。右の作品は鴻池朋子の「ヤマナメクジと月」。撮影:牧口英樹

白を基調にした館内の展示スペースへの動線も、緩急をつけながら、観るものを自然な流れでアートと対峙できるように誘ってくれる。今回のリニューアルでは、菊竹建築の照明や彫刻を思わせるドアノブなど、魅力的なディテールも残されている。

孤高の彫刻家、若林奮による、大地とアートが共鳴する庭園

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台地の奥に堂々とした存在感を示す美術館。撮影:加藤健

「セゾン現代美術館」の見どころのひとつが、エントランスから続く回遊式の庭園。その基本構想を手掛けたのは、戦後を代表する現代彫刻家の若林奮だ。2,700m²超えの敷地の多くを占める庭園は、浅間山に抱かれているかのような、裾野の立地を意識し構成されている。中央を流れる小川、周囲にはメタセコイヤなどの高木、足元を見れば潤いを含み群生する苔……。そして美術館前の台地には、浅間山の傾斜17度を再現した。

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若林奮によるコールテン鋼板の鉄橋。撮影:加藤健

そして庭園の各所には鉄を使った代表作「振動尺」ほか、金属を素材とした若林の作品が配されている。印象的なのは、表面が経年変化することで内部の強度が増す特性を持つコールテン鋼板の作品。硬質な人工物が生み出すサビの表情が、自然との共生を醸す。人間と地球の関係性をゆっくりと時間をかけて味わいたい。

美術館の文脈を捉え、新時代の空間を生み出した工藤桃子

 

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リニューアルしたカフェ。入館チケットには有機茶と干菓子も含まれている。富山のガラス作家、ピーター・アイビーが制作した美術館オリジナルのお重で提供。撮影:牧口英樹

庭園で風景を感じながら館内へと足を進める感覚を、この美術館の本質的魅力として捉え、エントランスとショップ、カフェのリニューアルデザインを担当したのが工藤桃子。帝国ホテルのガルガンチュア、CFCLといった店舗設計などを手掛ける注目の女性建築家。工藤は今回、菊竹建築の価値をより純度高く体験できることを一義に、再構築している。菊竹が使用した自然素材と調和をふまえ、土を使う左官素材や多治見のタイル、泡入りアクリルの照明などを配した。

 

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アートフォーラムショップに並べられた作品は購入可能。撮影:牧口英樹

エントランスは混在していたショップ機能を整理し、静けさと緊張感を称えた空間に。カフェは寛ぎを感じられるラウンジのような雰囲気を目指した。

また記念のデザイングッズなどを雑然と並べるのではなく、ゲストが日常に楽しむことができる作品を厳選し、小さな展示会場さながらにディスプレイしたアートフォーラムショップの設計も工藤が担当した。

気鋭の写真家、瀧本幹也が捉えた、自然・余白・静寂

 

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庭園の緑をのぞむ、ひとときの静寂を伝える瀧本幹也の写真。瀧本幹也《SEZON MUSEUM OF MODERN ART #04》2026年 © Mikiya TAKIMOTO / Courtesy of MT Gallery

そのショップでもA4判ポスターとして扱う、45周年を記念したヴィジュアルを撮り下ろしたのは、写真家の瀧本幹也。独自の視点と卓越した技術で、作品はもとより広告写真、映像の撮影監督などを務め、国内外から評価を得ている。新たな「セゾン現代美術館」の姿を、1週間余り実際に滞在しながら、瀧本自身の視点で切り取った。

 

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館内のディテールを、グラフィカルかつセンシュアルに捉えて。瀧本幹也《SEZON MUSEUM OF MODERN ART #01》2026年 © Mikiya TAKIMOTO / Courtesy of MT Galler

4×5判フィルムを用い、一枚一枚暗室で丁寧に仕上げて、デジタル写真には再現できない繊細な質感を捉えている。耳を澄ませば、この美術館に漂う気配が聞こえてくるようだ。横浜・みなとみらいの関連施設「セゾンアートショップ」では、リオープンを記念し、この瀧本作品を展示する写真展を開催している。

8月23日まで開催されているのは、セゾン現代美術館コレクション展「ソコからみたキセキ」。マーク・ロスコ、ジャクソン・ポロック、鴻池明子など、約800点に上る収蔵品から80点ほどを厳選し、空間には作品のみが飾られている。作品名も作家名も年代の記載もない。才能溢れる創造者たちが時を超えて紡いだ空間で、心を研ぎ澄ませ、作品と向き合ってみたい。

 

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セゾン現代美術館コレクション展「ソコからみたキセキ」の展示風景。

 

セゾン現代美術館

長野県北佐久郡軽井沢町長倉芹ケ沢2140
TEL:0267-46-2020
開館時間:10時~18時 ※最終入場17時、カフェL.O.17時30分
休館日:木※8/23(日)まで無休、8/24(月)~9/4(金)は展示替えのため休館。
観覧料:一般¥3,000(前売り)¥3,300(当日)他
※美術館&庭園入館・館内カフェでのドリンクと小菓子付き
※事前予約制・日時指定
https://smma.or.jp/visit/

『SEZON MUSEUM  OF MODERN ART Photographs by Mikiya Takimoto』

開催期間:開催中~11月9日(月)
開催場所:セゾンアートショップ
神奈川県横浜市西区みなとみらい1-1-1
ヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテル1F
開場時間:10時~18時
定休日:木
入場料無料