【大英博物館の歌麿・北斎が日本へ】海を渡った江戸絵画が里帰り。東京都美術館で公開

  • 文&写真:はろるど
Share:
1.jpeg桜井香雲『法隆寺金堂壁画 九号壁 模本』 明治13年(1880)5月 大英博物館蔵 外交官アーネスト・サトウの依頼に応じて制作された模写。法隆寺金堂九号壁画「弥勒浄土図」を原寸大で写し取っている。本展で初の里帰りを果たした。

1753年の創立以来、世界屈指のコレクションを誇ってきた大英博物館。その膨大な所蔵品の中から、日本美術の粋を集めた展覧会が東京都美術館で開かれている。約150年ぶりに再会を果たした襖絵をはじめ、歌麿や北斎による貴重な里帰り作品、そして知られざる絵師の逸品まで、見どころ満載の展示の魅力をお伝えしたい。

日本美術コレクション、その始まりの5人の物語

2.jpegプロローグ:大英博物館と「日本」をつないだ貢献者たち 『大英博物館日本美術コレクション展』会場風景 大英博物館日本美術コレクションの形成に貢献した5人の人物を紹介している。

大英博物館が日本コレクションの蒐集を始めたのは、古くは18世紀前半に遡るという。もっとも、コレクションの核となる作品が集まったのは19世紀半ば以降のことだ。当時のヨーロッパでは日本文化への関心が急速に高まっており、同館もその機運に応じて所蔵品を拡充していく。こうして築かれたコレクションは、やがて日本国外でも屈指の評価を得るまでに成長した。展示冒頭で紹介される5人は、いずれも日本コレクションの基礎を築いた顔ぶれだ。

そのひとり、ウィリアム・アンダーソンは、お雇い外国人として日本に滞在した人物で、絵画の収集にとどまらず、著書『日本の絵画芸術』において日本美術の特質を分析的に論じている。一方、小説家アーサー・モリソンは浮世絵のコレクターとして名高く、1906年には約1800点にのぼる版画を大英博物館に売却し、同館の日本版画コレクションを飛躍的に充実させた。自身の名を「ARTHUR MORRISON」と刻んだ印章は、収集した絵画に用いられた所蔵印である。

3つの国に分かれた襖絵が、約150年ぶりに奇跡の再会

3.jpeg
左:狩野宗眼重信『秋冬花鳥図襖』 桃山時代末〜江戸時代初(17世紀初) 大英博物館蔵 
右:狩野宗眼重信『春景花鳥図襖』 桃山時代末〜江戸時代初(17世紀初) 個人蔵 宮越家
宮越家とは青森県中泊町尾別に所在する、江戸時代から続く旧家。離れ「詩夢庵」とは、『春景花鳥図襖』などを購入した9代目・宮越正治が、夫人イハのために建てて贈ったもの。

日英米の3つの国に分かれていた襖絵が、約150年の時を経て再会を果たしている。それらはもともと談山神社(現・奈良県桜井市)に伝わっていたもので、桃山時代末から江戸時代にかけて狩野派の絵師が手がけたと考えられている。しかし明治に入り、廃仏毀釈のあおりを受けて一連の襖絵は神社を離れ、世界各地に分蔵。このうち『春景花鳥図襖』と『名所風俗図襖(三保松原・清見寺)』の2点は、1922年に青森県の宮越家が購入し、離れの「詩夢庵」に設えられた。

一方、もとは両面仕立てだった襖絵『秋冬花鳥図襖』と『琴棋書画仙人図襖』は、1930年代に表裏で切り離され、それぞれ大英博物館とシアトル美術館の所蔵となる。そして2024年、宮越家と大英博物館の所蔵する襖絵が、一連のものであったことが判明。今回、ロンドンとシアトルの遠く離れた地で受け継がれてきた襖絵が来日し、青森の襖絵と再び肩を並べる形で展示された。金銀に輝く画面で四季の情景を描いた『秋冬花鳥図襖』と『春景花鳥図襖』を前にすると、そのゴージャスな佇まいに思わず息をのんでしまう。

---fadeinPager---

イギリスから初里帰りの喜多川歌麿の貴重な肉筆画『文読む遊女』

4.jpeg
喜多川歌麿『文読む遊女』 文化元〜3年(1804〜1806)頃 大英博物館蔵 唇が笹色紅であることや、髷の大きさ、下あごのの膨らみなどの特徴から、歌麿最晩年の作品と推定されている。

イギリスからの初里帰り作品も少なくないなか、ぜひ目にしておきたいのが、2011年に新たに発見された喜多川歌麿の『文読む遊女』だ。正装した遊女が文を読む姿を鮮やかな色彩で描いていて、世界に50点前後しか現存しないとされる歌麿の肉筆画のなかでも、最大級の一点に数えられる。一般に筆が衰えたとされる最晩年の作品でありながら、精緻な衣服の模様や生気に満ちた表情からは、歌麿の確かな画力もうかがえる。

葛飾北斎の『「万物絵本大全」版下絵』も見逃せない。版下絵とは、版画を彫るための原画のこと。もとは本の挿絵として描かれたが、出版が実現しなかったことで、103点がそのまま残された。長らく行方不明とされていたが、2020年に大英博物館がまとめて購入し、今回はそのうち8点が公開されている。内容は古代インドや中国の神話、動植物など多岐にわたり、未完に終わった構想が分かるだけでなく、晩年の北斎の制作を知るうえでも貴重な資料といえる。

※葛の字は正しくは、中が人の漢字となります。

虫たちの行列と、相撲見物のにぎわい

5.jpeg
河村文鳳『鴨川武戯図巻』 文化2年(1805)頃 大英博物館蔵 岸派の絵師である河村文鳳は、岸駒門下の年長者の有力門人であったと考えられている。絵巻は実に全長18メートル。そのうち一部が公開されている。

著名な絵師による作品や、貴重な里帰りの品に目がいきがちだが、馴染みの薄い絵師のなかにも、思わず足を止めたくなる一枚が意外なほど隠れている。『虫行列図』は、江戸時代後期に大阪で活動した西山芳園の手によるもの。画面右下から左上へと、大名行列に見立てて行進する虫たちの姿を、細やかな筆致でとらえている。先頭を行く「毛槍持ち」に扮したバッタが、腰を低く落とした「摺り足」で歩く様子など、リアルでありながらどこかユーモラスな描写も楽しい。

同じ江戸時代後期の絵師、河村文鳳の『鴨川武戯図巻』は、京都・鴨川河畔で夏に催された勧進相撲を題材にした絵巻だ。取組みを見ようと身動きが取れないほど大勢の人が詰めかけているが、その一人ひとりの仕草が実にコミカル。西瓜をほおばったり、酒を飲んだりと、思い思いに寛ぎながら相撲見物を楽しんでいる。著名な絵師の傑作から思わぬ掘り出しものまで、次々と表情を変える会場はまさに百花繚乱。日本美術の懐の深さを、大英博物館のコレクションにて存分に味わいたい。

東京都美術館開館100周年記念『大英博物館日本美術コレクション 百花繚乱~海を越えた江戸絵画』

開催期間:開催中〜2026年10月18日(日)
開催場所:東京都美術館 企画展示室
東京都台東区上野公園8-36
開室時間:9時30分~17時30分(金曜は20時まで)
 ※入室は閉室の30分前まで
休室日:月。10/13(火)
 ※ただし9/21(月・祝)、10/12(月・祝)は開室
観覧料:一般¥2,300 他
https://daiei-ten2026.exhibit.jp

はろるど

アートライター / ブロガー

千葉県在住。WEBメディアを中心に、アート系のコラムや展覧会のレポートを執筆。日々、美術館や博物館に足を運びながら、作品との出会いや発見をSNSにて発信している。趣味はアートや音楽鑑賞、軽いジョギング。そしてお酒を楽しむこと。

はろるど

アートライター / ブロガー

千葉県在住。WEBメディアを中心に、アート系のコラムや展覧会のレポートを執筆。日々、美術館や博物館に足を運びながら、作品との出会いや発見をSNSにて発信している。趣味はアートや音楽鑑賞、軽いジョギング。そしてお酒を楽しむこと。