【まるで巨大な船】未来の暮らしを体現した集合住宅がすごかった

  • 文:宮田華子
Share:

フランス

TOP--Vatea-03-(1).jpg
Photo: © Cyrille Weiner

まるで川面を進む一艘の船のような建物が2025年春に竣工した。フランス東部ユナング(Huningue)のライン川沿いに現れた集合住宅「Vatea(ヴァテア)」は、細長く薄いシルエットを水辺に浮かべ、周囲の建物とは明らかに異なる存在感を放っている。 

川沿いwec2510_NLA_Huninghe_S1110182.jpg
Photo: © Cyrille Weiner

設計を手掛けたのは、フランスの建築設計事務所 「ニコラ・レネ・アーキテクツ(Nicolas Laisné Architectes)」。「Vatea」はフランス、ドイツ、スイスの国境が交わる地域に位置し、学生や若手プロフェッショナルなど、国境を越えて移動しながら働き暮らす人々のためのコリビング住宅として計画された。

長く水平に伸びたフォルムは、ライン川を行き交う船舶や水辺の景観から着想を得たものだという。中層部には船のデッキを思わせる大きな共有テラスが設けられ、川へ向かって大きく開かれた構成となっている。

船のデッキ Vatea-06.jpg
Photo: © Cyrille Weiner

越境都市に生まれた、新しい住まいのかたち

「Vatea」が建つユナングは、バーゼル都市圏に含まれる越境エリアであり、フランスに住みながらスイスやドイツへ通勤・通学する人も少なくない。そうした地域特性を背景に、この建物は“定住”よりも“流動性”を前提とした住環境として構想された。約6000㎡の建物内には、およそ200戸の家具付き住戸を備える。ワンルームから2寝室タイプまでを揃え、短期から中長期まで幅広い居住スタイルに対応する。

特徴的なのは、専有空間だけでなく共用空間を重視した構成である。館内にはコワーキングスペース、フィットネスルーム、シネマルーム、サウナ付きルーフトップテラスなどが設けられており、居住者同士の交流を促す設計となっている。

共有スペース Vatea-11-general-commun-space.jpg
Photo: © Cyrille Weiner

とりわけ中央テラスは、この建築の象徴的な場所だ。ライン川を望む開放的な空間は、単なる共用設備ではなく、人々が自然に集まり、風景を共有するための“居場所”として機能している。

共有テラス-Vatea-04-(1).jpg
Photo: © Cyrille Weiner

軽やかさを追求する 「ニコラ・レネ・アーキテクツ」

設計を手掛けた ニコラ・レネ・アーキテクツは、都市生活と自然環境の関係性を重視したプロジェクトで知られる建築事務所である。建築家ニコラ・レネは、集合住宅や都市開発を中心に、開放性や環境性能を重視した設計を数多く手掛けてきた。「Vatea」 においても、その思想は明確に表れている。

建物全体は、水平性と透明感を強調した軽快なデザインで統一されている。大きく開かれたファサードによって、自然光や周辺景観を内部へ取り込みながら、閉鎖的になりがちな集合住宅の印象を和らげている。また、ヒートポンプなどの高効率設備を採用し、環境負荷の低減にも配慮。1階には商業テナントを配置し、地域に開かれた構成としている。

下までの写真 Vatea-05.jpg
Photo: © Cyrille Weiner

水辺の風景と暮らしをつなぐ建築

近年のヨーロッパでは、働き方や居住スタイルの変化に伴い、コリビングという住まい方が急速に広がっている。その一方で、単なる効率的な共同住宅にとどまらず、地域や風景との関係性をどう築くかが新たな課題となっている。

「Vatea」はその問いに応答したプロジェクトといえるだろう。船のように細長いフォルムは視覚的なアイコンであるだけでなく、水辺の環境へと建築を開き、人と景観をゆるやかにつなぐ役割を担っている。現代都市における“共有する暮らし”のあり方を示す一例として注目されそうだ。

https://nicolaslaisne.com/

宮田華子

ロンドン在住ジャーナリスト/iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授

アート・デザイン・建築記事を得意とし、さまざまな媒体に執筆。歴史や潮流を鑑み、見る人の心に届くデザインを探すのが喜び。近年は日本のラジオやテレビへの出演も。英国のパブと食、手仕事をこよなく愛し、あっという間に在英20年。

宮田華子

ロンドン在住ジャーナリスト/iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授

アート・デザイン・建築記事を得意とし、さまざまな媒体に執筆。歴史や潮流を鑑み、見る人の心に届くデザインを探すのが喜び。近年は日本のラジオやテレビへの出演も。英国のパブと食、手仕事をこよなく愛し、あっという間に在英20年。