米ロサンゼルスのカリフォルニア科学センターの敷地内に、新館「サミュエル・オーシン航空宇宙センター(Samuel Oschin Air and Space Center)」が竣工した。延床面積は約1万8600㎡。30年以上にわたり進められてきた「カリフォルニア科学センター・マスタープラン」の最終段階にあたる大型プロジェクトであり、NASAのスペースシャトル「エンデバー」の恒久展示施設として整備された。
この新館は、「建築がまず存在し、その中に展示物を収める」という通常の展示施設とは異なる発想で生まれた。建築そのものがスペースシャトルを未来へ残すための容器として設計された。
エンデバーは2012年、NASAからカリフォルニア科学センターへ移送された。当時ロサンゼルス市街地を巨大な機体がゆっくり横断する様子が大きな話題となり、多くの市民が沿道から見守ったという。その後、機体は仮設展示館「サミュエル・オーシン・パビリオン」で水平展示されてきたが、今回完成した新館は、当初から計画されていた恒久展示プロジェクトの到達点にあたる。
「展示空間」ではなく、「発射状態」をつくる
新館の中心となるのは、高さ約61mに達する「シャトルギャラリー」だ。エンデバーがロケットブースターと外部燃料タンクを備えた「打ち上げ状態」で展示され、来館者は機体を下から見上げ、打ち上げ直前のスケール感を全身で体験できる。開館後には、スペースシャトルの完全なシステムを垂直状態で一般公開する世界唯一の施設になるという。
この展示方法が、建築のあり方そのものを決定づけた。巨大な機体を垂直状態で収めるため、内部には柱を極力設けない大空間が求められた。その結果、エンデバー全体を包み込むような巨大な外殻が必要となり、ステンレススチールによる曲面状の外殻が生まれた。
シャトルギャラリー部分だけでなく、外装全体にステンレススチールが使われている点も特徴的だ。流線形の外観はスペースシャトルの流体的なフォルムから着想を得たもので、空や周囲の光を反射しながら、巨大建築に軽やかさを与えている。
Photography by Mike Kelley
新館内には、航空機や宇宙探査をテーマにした複数の展示空間も整備される。航空宇宙関連の実物資料約100点と、体験型展示約100点が導入される予定であり、カリフォルニア科学センターの教育機能を大きく拡張する施設として位置づけられている。
ロサンゼルスの記憶を収める建築
設計を担当したZGF アーキテクツ(ZGF Architects)は、米オレゴン州ポートランドを拠点とする建築設計ファームである。1940年代に創設され、現在は北米各地に拠点を展開。教育施設、研究施設、医療施設、公共建築を数多く手掛けてきた。自然環境への配慮や、利用者体験を重視した公共建築に定評があり、カリフォルニア科学センターの整備計画にも30年以上にわたり携わっている。
ZGFのパートナー、テッド・ハイマンは今回の計画について、「スペースシャトルを発射状態で公開展示する世界唯一の施設」という前例のない試みに取り組んだと語っている。新たなランドマークを生み出すだけでなく、「巨大な宇宙船をどのように保存し、未来へ継承するか」という課題に向き合ったプロジェクトと言えるだろう。
エンデバーの移送から十数年を経て完成したこの新館は、単なる展示施設ではなく、ロサンゼルスという都市が共有してきた宇宙開発の記憶を収めるための建築でもある。「サミュエル・オーシン航空宇宙センター」の開館日は未定だが、現在は展示設営が進められており、ロサンゼルス五輪が開催される2028年までのオープンを目指しているという。
宮田華子
●ロンドン在住ジャーナリスト/iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授アート・デザイン・建築記事を得意とし、さまざまな媒体に執筆。歴史や潮流を鑑み、見る人の心に届くデザインを探すのが喜び。近年は日本のラジオやテレビへの出演も。英国のパブと食、手仕事をこよなく愛し、あっという間に在英20年。





