2022年から続いた大規模改修を経て、今年3月末にリニューアルオープンした東京都江戸東京博物館。その再開館を祝う特別展『大江戸礼賛』では、甲冑や屏風、婚礼道具、浮世絵、火消道具に至るまで、選りすぐりの約160件が一堂に集められている。武家社会と町人文化が交錯するなかで、独自の都市文化を成熟させた「大江戸」の姿を、多角的な視点から迫る。
実戦から美へ。泰平の世を飾った武具の魅力
1603年、徳川家康が幕府を開き、日本の政治の中心となった江戸には、将軍家直参の旗本、御家人をはじめ、全国の大名や家臣らが集住する。初期の大名屋敷は安土桃山時代の気風を残す壮麗な館だったものの、明暦の大火によって江戸城天守とともに市中の大半が焼失。その後は防災を軸とした都市再編が進み、天守を持たない江戸城を中心に、武家社会は秩序や格式を体現する儀礼に重きを置くようになった。
こうした時代にあって、甲冑や刀剣は、実戦の装備というよりも、家格や権威の象徴へと役目を変える。会場で目を引く二領の具足は、江戸で隆盛を誇った甲冑師の一大門流、明珍派の師弟が制作したもの。また将軍のお抱え工として家康の「康」の字をもらい、三つ葉葵の銘を許された刀鍛冶、越前康継の脇指や刀も展示されていて、その洗練された装飾や意匠に、泰平の世を飾った武具の美意識が見られる。
歌麿、写楽、そして北斎まで、浮世絵の名品も勢揃い
江戸の発展とともに、経済力を蓄えた町人層が台頭すると、花見や川遊び、寺社の開帳などの行楽が広まり、相撲や歌舞伎といった娯楽も大きな賑わいを見せる。『江戸名所図屏風』は、隅田川の舟遊びや桜に彩られた上野寛永寺といった四季折々の名所を描いた作品。寛永寺では酒宴に興じる人の姿も見られ、上野の花見が当時から親しまれていたことが伺える。なお江戸名所の番付では、最高位・東の大関に、現在の上野公園一帯にあたる忍ヶ岡が据えられていた。
明和年間に多色摺の木版画が普及し、「江戸絵」とも称された錦絵には、歌舞伎役者や吉原の遊女など、都市に生きるさまざまな人々が描かれている。勝川春章は歌舞伎役者の個性を捉えた「似顔」で人気を博すと、歌川豊国や東洲斎写楽らも続き、役者絵は一つの頂点を迎える。また喜多川歌麿は女性の内面に迫る美人画で一世を風靡し、葛飾北斎も風景表現を革新し、新たな絵画の世界を切り開いていった。
※葛の表記は、中が人となっているものになります。---fadeinPager---
火事も地震も疫病も─災禍とともに生きた江戸の人々
「火事と喧嘩は江戸の華」とうたわれたように、火災は江戸の町づくりや人々の暮らしと不可分の関係にあった。本展の見どころの一つが、江戸の火事を描いた作品や火消たちに関する資料だ。なかでも武家火消の火事羽織や頭巾は、鮮やかな色彩に加え、細かい刺繍が施され、華やかな装いが目を引く。実用性を重視した町火消の装束とは一味異なった、美術工芸的な魅力をたたえている。
また地震や疫病などの厄災にもたびたび襲われた江戸では、それらを除ける願いを込めた絵も数多く作られる。このうち天然痘や麻疹といった流行病は、疱瘡神は麻疹神の仕業と信じられ、神仏や英雄がこれらを打ち払う場面や、疱瘡神が忌むとされた赤色を基調とする赤絵が広く出回った。歌川国芳による『みみづく』には、疱瘡除けの玩具として尊ばれた張子のかわいい木兎が描かれている。
江戸のカルチャーを担った4人の才人たち
18世紀後半、趣味や学芸に才能を発揮した4人の文化人にも注目したい。このうち江戸琳派の祖として知られる酒井抱一は、俳諧や書画をたしなみ、画塾「雨華庵」を拠点に弟子や職人、文人たちと交わりながら多彩な文化活動を営んでいく。またこの抱一と親しく交友した大田南畝は、天明期に流行した狂歌を牽引した人物だ。この他、本草学や蘭学に秀でた平賀源内や、『南総里見八犬伝』を著した曲亭馬琴らの活動もあわせて紹介している。
もともと各地から人々が流入した江戸では、そこで生まれ育った人々のあいだに、彼らに対する気概としての「張り」、流行に鋭くさっぱりとした気質を示す「粋」、人情や遊里などの機微に通じる「通」といった行動様式が共通され、いわゆる江戸っ子の理念が形作られていったという。本展を通して、江戸の文化や暮らしに触れながら、江戸っ子になった気分でその魅力を楽しみたい。
『江戸東京博物館リニューアル記念特別展「大江戸礼賛」』
開催期間:開催中~2026年5月24日(日)
開催場所:東京都江戸東京博物館 1F特別展示室
東京都墨田区横網1-4-1
開館時間:9時30分〜17時30分
※土曜日は19時30分まで(入館は閉館の30分前まで)
休館日:月
観覧料:一般¥1,300 他
https://www.edo-tokyo-museum.or.jp/s-exhibition/raisan









