【草原に浮かぶ“火山のかたちをした宿”】内モンゴルに絶景ホテルが誕生

  • 文:宮田華子
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モンゴル

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Photo by Arch-Exist Photography

内モンゴルの広大な草原に、小さな火山のような形の建築群が静かに点在している。中国・錫林浩特(シリンホト)近郊のバイインクルン草原に完成した「ボルケーノ・イン・ホテル・オブ・アライバルズ(Volcano-In Hotel of Arrivals)」は、宿泊施設として独立した機能を持ちつつ、同地域の観光開発と連動している。

約15万年前に形成された休火山の南側斜面に位置し、周囲には草原、砂地、湖が交錯する風景が広がる。その中に、低層で分散配置されたキャビンが大地に溶け込むように佇む。2025年12月にプロジェクトの第一フェーズとしてこのホテルとビジターセンターが共に完成し、2026年1月1日にソフトオープンした。

 

キャビン遠方 05 credits Arch-Exist Photography.jpgPhoto by Arch-Exist Photography

バイインクルン草原の観光開発

このホテルは「ボルケーノ・イン・ビジターセンター(Volcano In Visitor Center)」とともに、バイインクルン草原の火山地形を活かした観光開発の一環として建設された。両施設には、火山をモチーフにした造形や素材の選定に共通性が見られる。

ビジターセンターは周辺環境や地質について訪問者に伝える拠点であり、周囲の風景を体験しながら学べる場だ。 

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ボルケーノ・イン・ビジターセンター。Photo by Arch-Exist Photography

本プロジェクトを手がけたのは、中国を拠点とする建築デザインファーム「PLAT ASIA」 である。地形や自然環境を読み取り、それらと連続するかたちで建築を構想する手法を特徴とし、観光施設や公共建築を中心に活動している。両施設のデザインにも、この理念が反映され、火山地形や草原の広がりを尊重した設計が随所に見られる。

ホテルはこの流れを受け、草原にキャビン群を点在させている。ビジターセンターと必ずしもセットで利用する必要はなく、ホテル単体での滞在も可能である。

 

キャビン近影 08 credits Arch-Exist Photography.jpg

Photo by Arch-Exist Photography

火山の記憶をなぞる建築群

キャビンは、まるで溶岩が分岐しながら流れる軌跡をなぞるように枝状に並べられている。

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Photo by Arch-Exist Photography

内部はコンパクトながら、寝室、リビング、浴室、テラスを備え、三種類の開口部によって周囲の風景を切り取る。天窓は夜空を、横長の窓は遠景を、縦長の窓は足元の草原を映し出す。こうした視線の操作は、中国の山水画の構図に着想を得たものであり、「自然を眺める」行為そのものを設計に取り込んでいる。

環境と共存する滞在のかたち

バイインクルン草原の火山南斜面は、長年の風食で砂地化が進んでいた。キャビン群は既存の窪地や砂堆積地に沿ってレイアウトされ、砂の移動を抑制しつつ土壌回復を促す設計となっている。プレファブリケーションによる現地組立で造成工事を最小限に抑え、脆弱な地表への負荷も軽減している。また、雪を留める壁体は水分保持を補助し、植生の回復を助ける役割を果たしている。

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Photo by Arch-Exist Photography

このキャビン群は、自然環境と観光開発の関係性を考慮した新しい滞在のあり方を示す試みでもある。土地の特性を踏まえた建築のあり方が、今後どのように展開していくのかが注目される。

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Photo by Arch-Exist Photography

 

宮田華子

ロンドン在住ジャーナリスト/iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授

アート・デザイン・建築記事を得意とし、さまざまな媒体に執筆。歴史や潮流を鑑み、見る人の心に届くデザインを探すのが喜び。近年は日本のラジオやテレビへの出演も。英国のパブと食、手仕事をこよなく愛し、あっという間に在英20年。

宮田華子

ロンドン在住ジャーナリスト/iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授

アート・デザイン・建築記事を得意とし、さまざまな媒体に執筆。歴史や潮流を鑑み、見る人の心に届くデザインを探すのが喜び。近年は日本のラジオやテレビへの出演も。英国のパブと食、手仕事をこよなく愛し、あっという間に在英20年。