【サグラダ・ファミリアに巨大十字架】着工から144年かけて頂へ。世界で最も高い教会の外観完成

  • 文:青葉やまと
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今年2月、サグラダ・ファミリアの最高塔「イエス・キリストの塔」の頂に高さ17メートルの十字架が据えられた。着工から144年、全高172.5メートルの世界で最も高い教会が、ついに外観の完成に至った。ガウディの没後100年を経て、その夢はいまだ人の心を打ち続ける。

着工144年、ついに頂に十字架が据えられた

 今年2月20日、バルセロナの空に巨大クレーンが伸びた。白い陶磁器とガラスが美しい十字架の最後の1ピースが、サグラダ・ファミリアの最高塔「イエス・キリストの塔」の頂へゆっくりと引き上げられていく。140年以上も「未完」であり続けた大聖堂の外観が完成する瞬間だった。

 この日据えられたのは、四方に腕を広げる立体的な十字架の上部アームだ。豪科学技術ニュースサイトのニュー・アトラスによると、ガラスと白い陶器エナメルに覆われたこのパーツは、高さ約4.5メートルに及ぶ。これが頂に収まり、十字架の全高は約17メートルに達した。ビル5〜6階分の高さだ。サグラダ・ファミリアで最も高いイエス・キリストの塔が完成した。

サグラダ・ファミリアは全18本の尖塔をもつ設計だ。今回の設置で、最も高い聖堂中央部の6本がすべて揃った。一世紀以上かけて一本ずつ築いてきた塔群の完結となる。聖堂の全高は172.5メートル。東京タワーのおよそ半分にあたる。バルセロナに、世界で最も高い教会が姿を現した。

着工は1882年。以来144年の歳月が流れている。十字架が据えられた今年は、設計者アントニ・ガウディの没後ちょうど100年にもあたる。多くの人間の一生をはるかに超える時間だ。幾世代もの人々がガウディの構想を受け継ぎ、この日ようやく、聖堂の外観を完成させた。

完成度25%未満でこの世を去ったガウディ

サグラダ・ファミリアの建設は1882年に始まった。翌年から設計を引き継いだ建築家アントニ・ガウディは、ゴシックの荘厳さとモダンな造形を掛け合わせた壮大な聖堂を構想。とりわけ人生最後の15年間ほどは他のすべての仕事を断り、この聖堂に没頭した。

だが1926年、不慮の事故でガウディはこの世を去る。完成していたのは全体の25%にも満たなかった。米科学技術メディアのポピュラーサイエンスは、一人の建築家が生涯を費やしてなお、聖堂はまだ序章にすぎなかったと振り返る。

没後わずか10年、1936年にスペイン内戦が勃発すると、ガウディが遺した初期の設計図と模型の一部も戦火で灰になり、その構想を読み解く手がかりはほとんどが失われた。それでも後継者たちは、この聖堂を見捨てなかった。1940年以降、内戦を生き延びた一部の設計図から丹念にガウディの設計意図を汲み取り、失われた部分には独自の解釈を重ねながら工事を再開した。

以来数十年にわたり複数の建築家が設計を引き継いできた。コンピューターモデリングなど現代の技術にも助けられ、建設は今日まで途切れることなく続いている。

ガウディが構想した全18本の尖塔は、それぞれ12使徒、4人の福音書記者、聖母マリア、イエス・キリストに捧げられている。ポピュラーサイエンスによれば、ガウディは各塔の内部に風力で鳴る管状の鐘(チューブラーベル)まで設計し、その音が聖堂全体に響くよう綿密な音響調査を重ねていたという。

未完の教会の完成された美しさ

緻密な造りは、信仰の有無を問わず訪れる者たちを魅了する。2025年、無神論者だという海外の旅行者が、バルセロナを訪れた。米旅行ライフスタイル誌のトラベル+レジャーへ寄稿された旅行手記によれば、観光チケットはどこも売り切れだったが、土曜夜の無料国際ミサなら信者でなくとも入れると知り、友人に誘われるまま開始直前に駆けつけたという。内部を一目見たいとの思いだった。

聖堂に足を踏み入れると、そこは外観の荘厳さが霞むほどの空間だったという。白い石の柱が木の幹のように天高くそびえ、上方で幾重にも枝分かれし、互いに交差しながら広大な天蓋を支えている。見上げれば、巨大な石の森のただなかにいた。壁一面のステンドグラスを抜けた陽光が虹色に変わって堂内に降り注ぎ、石の幹と枝を鮮やかに染めている。筆者はこの光景を「魔法の石の森」と表現している。好奇心だけで足を踏み入れたはずが、いつの間にかすっかり心を奪われ、その場を離れがたくなっていた。

聖堂はまだ完成していない。筆者が何より心を揺さぶられたのは、その事実だったという。着工から一世紀半、今この瞬間にも新たな石が積まれ続けている。完成していないからこそ、まだ息づいている。筆者はその感覚を「未完のものの美しさ(the beauty of something unfinished)」と呼んだ。

「私の施主は急いでいない」

外観が完成した今も、サグラダ・ファミリアの建設は終わっていない。ポピュラーサイエンスが今年2月に伝えたところによると、今後の工事は内部の装飾が中心になっていくという。聖堂にふさわしい彫刻や造形を、一つひとつ手がけていく。

すでに動き出した仕事もある。内部に据えられる「アニュス・デイ(神の子羊)」像だ。世の罪を贖う救い主イエスを象徴するこの像の制作は、2025年の国際コンペティションを経て、イタリア人芸術家アンドレア・マストロヴィート氏に託された。

すべてが計画通りに運べば、サグラダ・ファミリアは2034年に全体の完成を迎える。1882年の着工から数えて、実に152年越しの完成だ。2月に達成した外観の完成は大きな節目だが、まだ終着点ではない。聖堂を祈りの場として仕上げる仕事は、ここからが本番だ。

未完のまま天を突くその姿に、100年以上にわたって、世界中から訪れる人々が心を動かされてきた。偉大なものを生み出す力は完成の瞬間にだけ宿るのではなく、そこに至る途方もない道のり自体に息づいているのかもしれない。工期の長さを問われたガウディは、かつて、「私の施主は急いでいない」と冗談めかして答えたと伝えられている。その施主とは、神のことだった。

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青葉やまと

フリーライター

1982年生まれ。大手メーカー系企業でのシステムエンジニア職を経て、2010年から文筆業に転身。IT・アートから国際政治・経済まで、幅広くニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『プレジデントオンライン』などに寄稿中。

青葉やまと

フリーライター

1982年生まれ。大手メーカー系企業でのシステムエンジニア職を経て、2010年から文筆業に転身。IT・アートから国際政治・経済まで、幅広くニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『プレジデントオンライン』などに寄稿中。