東京・表参道のエスパス ルイ・ヴィトン東京で、リナ・バネルジーの個展『“You made me leave home…』が3月19日より開幕している。本展は、同施設の設立20周年とフォンダシオン ルイ・ヴィトンによる「Hors-les-murs(壁を越えて)」プログラム10周年という節目記念して企画されたものだ。
インド・コルカタに生まれ、現在はニューヨークを拠点に活動するバネルジーは、移民としての自身の経験を起点に、植民地主義やアイデンティティ、人とモノの移動といったテーマに向き合ってきた。彼女は、綿糸やココナッツパウダーといった日用品をはじめ、テキスタイルや羽根、ダチョウの卵、ガラスのシャンデリアなど、多様なファウンド・オブジェクトを用い、神秘的な女性像や幻想的なインスタレーションへと変容させてきた。それらの素材には、グローバル・サウスに由来する文化や、植民地主義の記憶が織り込まれている。
会場に足を踏み入れるとまず目に飛び込んでくるのは、高さ約7メートルに及ぶインスタレーション。ジュール・ヴェルヌ『八十日間世界一周』に着想を得た本作は、世界を巡る移動の祝祭性と、その裏に潜む不均衡や危うさを象徴的に描き出す。天井から吊り下げられた構造体と、そこから降り注ぐ無数のオブジェは、バネルジーの創作の核心を示すかのように、空間全体を包み込む。
また、近作『Black Noodles』では、人毛の国際取引という見えにくい経済や政治の構造に目を向ける。美しさと違和感が同居するその造形は、鑑賞者の感覚を揺さぶりながら、私たちが無意識に受け入れている“流通”のあり方を問い返す。
本展ではさらに、2026年の新作絵画シリーズも公開。インドの細密画や中国の絹絵、アステカのドローイングなどを参照しながら、ヒンドゥーの女神を思わせる女性像が描かれる。それらは単なる象徴ではなく、移動し続ける「自己」の多層性を映し出す存在だ。
バネルジーの作品は、華やかで装飾的でありながら、そこに潜む歴史や政治性を静かに差し出す。異なる文化や時間、素材が交差するその場に立つとき、私たちは“どこに属しているのか”という問いに、ふと立ち止まることになるだろう。
Rina Banerjee
『“You made me leave home...』
開催期間:開催中~2026年9月13日(日)
開催場所:エスパス ルイ・ヴィトン東京
東京都渋谷区神宮前5-7-5 ルイ·ヴィトン表参道ビル 7F
開館時間:12時〜20時
休館日:ルイ・ヴィトン 表参道店と同様
入場料:無料
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