東京・銀座のシャネル・ネクサス・ホールで開催中の『FUGUE FOR 31 RUE CAMBON』(カンボン通り31番地のフーガ)。アメリカを代表する現代写真家のひとり、ロー・エスリッジが、シャネルのレガシーを物語る私的なオブジェと出合い、新たな命を吹き込んだ。
シャネルの創造の源となった、プライベートコレクション
本展のタイトルにもなっているパリのカンボン通り31番地は、1921年から現在に至るまでシャネルブティックの本店であり、マドモアゼル シャネルが暮らした場所でもある。鏡張りの螺旋階段を上がった先に現れるプライベートな空間は、限られた特別な人だけが足を踏み入れることのできた隠れ家であった。中国のコロマンデル屏風が壁に並び、クリスタルシャンデリアやヴェネチアンミラーに彩られた空間に、彼女はお気に入りのオブジェや書物を集めインスピレーションの源として愛でた。そのコレクションは2世紀のエジプトの葬儀用マスクや木彫りのムーア人像など、時代や場所を超えて彼女の審美眼がいかに広範囲なものだったかを物語っている。
この特別な場所に入ることを許されたロー・エスリッジは、古今東西のオブジェに加え、ピカソによるスケッチやダリによる献辞、コクトーからの手紙など、シャネルと親交の深かったアーティストの遺物を選び出した。4日間かけて撮影された作品は、今回の展示のためにニューヨークでプリントされ、シャネルの機関誌『ARTS & CULTURE』にも掲載されている。

20代でマイアミからニューヨークに移り住み、コマーシャル写真とファイン・アートのふたつの領域を横断しながら制作活動を行うエスリッジは、シャネルというメゾンについての私的な思い出を語った。
「子どもの頃、母の化粧台にはパールや化粧品、ヘアスプレーと一緒にシャネル No.5が置かれていました。その小さな香水瓶を手にして、これは家の中で一番高価なものに違いないと思ったものです。その後シャネルの広告を目にしたときは、商業写真であると同時にクリエイティブな印象を受けました。そして自分もクリエイティブの世界に参加できるような作品を生み出したいと思ったのです」
屏風のように並べた鏡の前にエジプトのマスクを置き、シャネルのお馴染みのアイテムであるロングパールネックレスやカメリアのブローチを合わせたり、キャンディの包み紙のようなポップな素材に色とりどりのシャネルのブローチやイヤリングを載せたり、ダリの作品『麦の穂』にクルーズコレクションであるローラースケートを組み合わせたり。一見何の関係もなさそうなオブジェたちが、エスリッジ特有のウィットや審美眼によって新たな命を吹き込まれ、シャネルというメゾンの輝きを提示している。
私たちの周りにあふれている広告写真の中に、目を奪われて忘れられない一枚があったとしたら、それはすでにアートという世界に誘われているのかもしれない。広告表現とファインアートの垣根を揺さぶるエスリッジの世界を覗いてみたい。
『FUGUE FOR 31 RUE CAMBON』
開催期間:開催中〜2026年4月18日(土)
開催場所:シャネル・ネクサス・ホール
東京都中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4F
開館時間:11時〜19時 ※最終入場18時30分
https://nexushall.chanel.com/program/2026/roe_ethridge/