右上:「アキュトロン チューニングフォーク スペースビュー 314 26A212」世界初の音叉時計を機構からデザインまで見直し、再創造した。右下:「アーカイブスシリーズ コンピュートロン 97C110」1976年に発表したオリジナルスタイルはそのままに、現代の設計によってLEDの性能も輝度や省エネ性に優れる。左下:「カーブ 96A205」クロノグラフでは不可能とされてきたカーブしたムーブメントを実現し、薄型ケースと組み合わせる。
連載「腕時計のDNA」Vol.25
各ブランドから日々発表される新作腕時計。この連載では、時計ジャーナリストの柴田充が注目の新作に加え、その系譜に連なる定番モデルや、一見無関係な通好みのモデルを3本紹介する。その3本を並べて見ることで、新作時計や時計ブランドのDNAが見えてくるはずだ。
昨年、創業150周年を迎えたブローバの歴史は、ニューヨークの小さな宝飾店から始まった。当時アメリカでは、急速な工業化と技術革新が進み、繁栄の時代を迎えていた。そのなかで鉄道網の発展などを背景に、重要な社会基盤のひとつとして精度と信頼性の高い時計が求められ、時計製造も大量生産と規格化が進んだ。その影響は、伝統的な手工業中心だったスイス時計産業にも近代化を促す一方、ブローバも1912年にスイスのビエンヌに自社工場を設立し、アメリカ発祥、スイスメイドという体制を整えたのだった。以降ブランドの歩みは常にアメリカとともにあったといえるだろう。
時代を先取り、広告プロモーションも積極展開し、時計メーカーでは国内初の時報を兼ねたラジオCMや世界初の時計ラジオの開発、世界初の時計のTVCMを制作した。そして戦後には、世界初の音叉式電子時計「アキュトロン」を発表し、1970年にはアメリカ初のクオーツ式腕時計「アキュクォーツ」へ発展。さらにダイバーズやミリタリーに注力し、宇宙開発にも寄与するなど革新性はまさに陸海空を制したのだった。そして2000年代にはブランド復興を果たし、アメリカンブランドらしいパイオニア精神に溢れる独自のポジションを築いている。
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新作「アキュトロン チューニングフォーク スペースビュー 314 26A212」
10年の再創造で進み始めた音叉時計の新たな時
初代「アキュトロン」は、1960年に世界初の音叉式電子時計として登場した。その名は「Accuracy(正確性)」と「Electron(電子)」に由来し、伝統的なテンプに代わり、音叉を用いた高振動によって月差1分以内の高精度を実現した。革新性をアピールするため、プロモーション用に文字盤をスケルトン化したところ、それが話題となり、「アキュトロン 214」として市販された。これまで2010年に音叉デザインを再現したクオーツ式、2020年には静電誘導式という新機構を搭載したオマージュモデルを発表してきたが、新作「アキュトロン スペースビュー」は10年の開発期間を経て、音叉機構を再構築し現代の最新技術で蘇らせた。「アキュトロン」は現在、ブローバから独立したブランドとして新たな歴史を刻んでいる。
初代のデザインを再現したスケルトン文字盤に、滑らかに進む秒針のスイープ運針は音叉時計ならでは。さらにこれまでになかったスケルトンバックを採用し、ムーブメントの裏側の独自のレイアウトも見ることができる。そして耳を近づければ、ハムと呼ばれるF#の微細な音に気づくだろう。これは音叉の高周波が発する、機械式とは異なる“未来の音”であり、まさに視覚と聴覚で音叉時計の革新性をアピールするのだ。開発を手がけたのは、「アキュトロン」をグループ傘下にするシチズンのエンジニアリングチームであり、日本の時計技術が加わり、生み出した次世代のヘリテージである。
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定番「カーブ 96A205」
カーブ 96A205/湾曲したムーブメントながら、一般的なクオーツの振動数32,768Hzに対し、262.144kHzの圧倒的な高振動を誇る。人間工学に基づく装着感と高精度を併せ持つデザインだ。クオーツ、SSケース×ブレスレット、ケース径44㎜、3気圧防水。¥143,000
ムーブメントをカーブさせたデザインの新境地
手首に着けるアイテムである以上、よりフィットした装着感にはそのカーブに沿ったフォルムが望ましい。しかしケースバックやラグのシェイプをそれに近づけることはあっても、内蔵するムーブメントまでも湾曲させるのは至難の技だ。これをクオーツ式のクロノグラフムーブメントで世界で初めて実現したのが2016年に登場した「カーブ」だ。製作には、手首に沿うようカーブさせた基盤に、まずクオーツ振動子やコイル、電池など曲げることのできないパーツの配置を決定。さらに長針が12時や6時を差す際にカーブした風防に接触しないよう、針の形状始め、高さや風防の厚みも0.1㎜単位で調節している。
ムーブメントに沿って文字盤を曲げたのもブランド初の試みで、製造も文字盤にチャプターリングを載せた後に全体を曲げるという複雑な工程を採用している。こうして生まれる手首との一体感に加え、全面に広げたサファイアガラスやラグのフォルムと、ケースサイドのラインで曲線美と薄さをアピールする。新作はメタルブレスレットとブルーのスケルトン文字盤が精悍さと未来的なデザインを演出する、一見、無機質ながらも手首に着けると有機的な一体感が味わえるのだ。それも先進を追求するブローバにふさわしい。
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通好み「コンピュートロン」

アーカイブスシリーズ コンピュートロン 97C110/2019年に復活し、初代誕生から半世紀を経たいまも、未来を予感させるデザインは色褪せない。LEDデジタルクオーツ、SSケース×ブレスレット、ケース径31.1×40.3㎜、3気圧防水。¥44,000
70sのヴィンテージテイストが気軽に楽しめる
デジタルウォッチからまず思い浮かぶのは、回転する時分針ではなく、数字での時刻表示だろう。これをもたらしたのは1962年に発明されたLED (発光ダイオード)技術だ。小型かつ高輝度を併せ持ち、ガラス製の筒を使ったニキシー管に代わり、新たな発光デバイスとして注目を集めた。1970年にはアメリカで時計に初採用され、同年に音叉時計からアメリカ初の自社クオーツ「アキュクォーツ」を発表したブローバも1976年にLED表示を組み合わせた「コンピュートロン」を発表した。
デザインは、当時デジタルウォッチの主流だったウェッジシェイプを採用し、台形の傾斜した手前側面にプッシュボタンで赤い数字が浮かび上がり、時刻を知らせる。クルマのハンドルを握った状態でも確認しやすいことから、ドライバーズウォッチとしても支持されたという。しかしLEDは消費電力も多く、表示も短かかったため、やがてLCD(液晶)に取って代わられたのだった。復刻した「コンピュートロン 97C110」は、省電力化された最新ムーブメントを搭載し、プッシュボタンの操作で、時間、分、秒、日付、曜日、デュアルタイムに表示を切り替えられる。近未来を感じさせるデザインやレトロな赤いデジタル表示は、むしろ新鮮さを感じさせ、ゴドロン装飾を施したケースはドレッシーな雰囲気とともに、70sテイストのファッションにも合う。手頃な価格も魅力だ。
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新世代へのブランド復興を支える日本の技術
1970年代、クオーツ技術の登場で世界の時計産業は大きく様変わりした。それまでの高級志向から量産廉価が進み、例に違わずブローバも技術オリエンテッドから外れ、80年代以降アメリカのモノづくりが衰退する中、低迷期に入った。だが90年代に入り、機械式時計の復権から時計の価値が見直され、再びブローバは注目を集める。復興のきっかけとなったのが2007年にシチズンウォッチグループに入ったことだ。
アメリカの歴史と文化に根ざしたブランドのオリジナリティに日本の先進技術を注ぎ、2010年には「プレシジョニスト」を発表した。これは通常の8倍にあたる262.144kHzを誇る高振動クオーツであり、現在のブランドのスタンダードムーブメントに位置づける。以降も技術革新の伝統を蘇らせ、培ってきたヘリテージを深掘りし、スイス時計とも異なる独自の路線を貫く。時にはマニアックともいえるほどのこだわりは、音楽やファッションにも通じるのかもしれない。そこにはヴィンテージへの再評価とともに、世界的なブームを牽引する日本のモノづくりと審美性が息づくのである。

柴田 充(時計ジャーナリスト)
1962年、東京都生まれ。自動車メーカー広告制作会社でコピーライターを経て、フリーランスに。時計、ファッション、クルマ、デザインなどのジャンルを中心に、現在は広告制作や編集ほか、時計専門誌やメンズライフスタイル誌、デジタルマガジンなどで執筆中。