森の中に静かに佇む集落。伝統建築のようでありながら、各戸の屋根にはまるで大きなパラボラアンテナのような物体が鎮座し、近未来の光景を思わせる。そんなめずらしい建築コンセプトが登場した。
太陽を追う「動く建築」
コンセプトの名は、「Fiji Solar Crown(フィジー・ソーラー・クラウン)」。建築スタジオのMASKアーキテクツとテクノロジー企業のテッセリアンテックが手がけた、世界初の「太陽光発電統合型・住宅システム」だ。
パラボラアンテナのような物体の正体は、直径7メートルの巨大な凹面鏡。太陽を追って360度回転し、垂直方向は±45度に傾く。
太陽を追い、まるでひまわりのように動く建築があっても良いのではないか。そんな発想のもと、日の出から日没まで、収集ディスクが光を捉え続ける。伝統的なフィジーの島々に新たな暮らしの形をもたらそうとしている。
米科学技術誌のインタレスティング・エンジニアリングによると、凹面鏡を駆動するのは、水平軸と垂直軸の双方で太陽を追尾するデュアルアクシス機構だ。陽極酸化アルミニウム製の鏡面に太陽熱ナノコーティングを施し、紫外線にも塩水にも耐えるという。
伝統建築「ブレ」が着想のヒントに
こうした設計の着想点となったのは、フィジーの伝統的な住居「ブレ」だ。「工学的革新と文化的敬意、空間知性を融合させた」と、MASK Architectsは語る。伝統の住空間を取り入れながら新たな発想でエネルギーを生み出すこのシステムは、用途に応じて直径3メートル、5メートル、7メートルの3種類のサイズで展開される。
直径3メートルは、農村向けの自律型ユニットだ。灌漑ポンプを動かし、夜には灯りが灯る。5メートルは村の交流施設の核となり、野外教室、集会所、観光施設として機能する。7メートルは複数の階層からなる住居だ。陸にも水上にも建てられ、単独でもクラスター化しても機能する。
建築サイトのパラメトリック・アーキテクチャーは、これらが連携することで、ディーゼル発電機を使わずに住宅、学校、診療所、冷蔵施設などへの電力供給を実現する柔軟な地域ネットワークを形成する、と利点を紹介する。
ディッシュの縁には集水用の縁が備わっており、雨水を捕集して中央の支柱を通じて貯水槽へ送る。鏡面は日よけとしても機能し、構造物の下でフィジーの日差しから人々に涼をもたらす。
小さなリゾートをまかなえる発電量
動く建築により、実際にどれほどの電力を生み出せるのか。直径3メートルモデルで1日あたり約12kWhを発電でき、これは農村部の照明や小型の農機向けとして十分な出力だ。
最大の7メートルモデルでは約58kWhに達し、10基をクラスター配置すれば年間発電量は21万kWhになる。村落規模のマイクログリッド(地域内の独自電力網)を支えるに十分だ、とインタレスティング・エンジニアリングは試算する。小さなエコリゾートであれば、1クラスターで電力がまかなえる計算だという。
なお、地域経済への貢献も配慮されており、建築に必要な素材は現地で調達するという。竹の集成材や、フィジー在来の広葉樹から採れる木材、玄武岩の繊維複合材などを中心に、いずれも地元の職人が施工に携わることを前提とした設計になっている。
現在はあくまでコンセプトに留まるが、そう遠くない未来、フィジーのリゾートでお目にかかる日が来るかもしれない。



