【キノコ型の楽園】ベトナムの森に浮かぶ「円形屋根」の正体。自然と共鳴する最先端リゾート

  • 文:青葉やまと
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ベトナム

 

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緑の森にキノコのような円形屋根が浮かぶ。ベトナムに誕生した「ロータス・クラブハウス」は、約2000平方メートルの敷地に建物を分散配置する独特の設計だ。そこには「周辺の景観への配慮」と「ユニークな空間体験」という相反する目標を同時に実現する、緻密な計算が隠されている。

森に浮かぶキノコ型の屋根

緑の森の中に浮かぶ、いくつもの円形の屋根。有機的な曲線を帯びた支柱と相まって、まるで雨上がりの森に自生したキノコの群れのようだ。

ベトナムに誕生したリゾート施設「ロータス・クラブハウス」は、その独特のシルエットで見る者の目を奪う。MIAデザインスタジオが手がけたこの施設は、約2000平方メートルの敷地に小ぶりな建物をいくつも点在させる設計だ。上にいくほど広がる円柱が、互いに重なり合う屋根を支えている。

興味深いことに、各棟は地形の傾斜に沿うようにして、少しずつ高さを変えて建てられている。結果、建物は地面にぽんと建てられた人工物というより、大地から自然に生え出てきたキノコか植物の群れにも見える。

建築専門サイトのアーキ・デイリーによると、設計チームはこの効果を意図して狙ったという。プロジェクトの初期段階から「建築と景観、そして土地の個性との対話」をコンセプトに掲げ、人工と自然の境目をあえて曖昧にしようとした。

遠くから眺めると、個々の屋根は森の木々に溶け込み、その存在感を消す。大きな建物では成し得なかった、風景との調和だ。

地形に溶け込む分散配置

建物を分散させた理由は、景観への配慮だけではない。訪れる人々の空間体験を豊かにする狙いがある。

MIAデザインスタジオによれば、各棟は曲線を描く小道や水面に面している。歩くたびに開放感と静けさ、光と影が移り変わっていく設計だ。

そもそもクラブハウスとは、リゾート施設の共用部分を指す。レストランや子供の遊び場といったにぎやかな空間は湖に向かって大きく開かれ、スパやラウンジ、瞑想の場は木々の陰にひっそりと身を潜めるように配置されている。

建築を一つの塊として完結させず、機能ごとに切り分けて地形に点在させる。そうすることで、訪れた人は森の中を散策しているかのような感覚に包まれる。光や風、水の流れを感じながら、次の一歩をさりげなく誘導される。そんな不思議な体験を目指した。

ロータス・クラブハウスには、一見相反する二つの目標があるという。1点目は、建物の存在感を抑えて風景に溶け込ませること。そして2点目は、中を歩く人に豊かな空間体験をもたらすこと。この二つは両立が難しい。

控えめに徹すればミニマルで単調な空間になりがちだし、体験を豊かにしようとすれば建築の主張が強くなる。だが、施設を分散配置することで、そのジレンマを一気に解消した。

全体としては森に溶け込みながら、歩くたびに光、風、水との新たな出会いが生まれる。ドイツの建築サイト「アーキテクチャーズ」は、MIAデザインスタジオによるコンセプトを取りあげ、「地形と調和して呼吸する生きた有機体」と表現している。派手なデザインを抑制しながらも、豊かな体験を同時に実現するところにこそ、分散型設計の本質的がある。

「生きた屋根」が隠し持ついくつもの機能

各棟を覆う円形の屋根には、高さを変えながら何層もの植栽が施されている。表面には在来種の植物が密生。装飾としての美しさも然ることながら、人の手を借りずに循環する小さな生態系として機能している。

環境面での工夫も随所に凝らされている。アーキ・デイリーによると、植栽のある屋根は熱の吸収を抑え、建物を自然に冷却する。野生生物のすみかにもなり、降った雨水を浄化してから湖へと還す役割も兼ね備えるという。

一つ一つの屋根モジュールが漏斗のような構造で雨水を集め、日差しを調整して室内への直射を和らげる設計だ。曲線状の支柱が、漏斗としての役割を果たす。屋根の一部には太陽光パネルが目立たないよう組み込まれ、施設の運営に必要なエネルギーを生み出している。

大型の主要屋根は3つあり、中央に向かって徐々に高い位置に設置されている。森の樹冠に溶け込むだけでなく、熱帯の気候に適応するよう意図された。奇抜な形には、自然と調和しエネルギー効率を高めるための工夫が凝らされている。

自然との共鳴を目指す

MIAデザインスタジオは、自社サイトにてこう語る。「建築の未来は自然を支配することではなく、自然と共鳴することにある」。

建築の個性は壮大さや奇抜さから生まれるのではなく、慎ましさと抑制と洗練、そして周囲に溶け込む繊細な配慮から生まれる。それが同スタジオの信念だ。

建物の高さは最大7.2メートルに抑えられ、周囲のヴィラに調和するほか、湖の向こうに広がる眺望を遮らない。水面から眺めると、建物は大地の上に軽やかに降り立ち、まるで浮かんでいるかのようだ。

ロータス・クラブハウスは華美なリゾート施設ではなく、大地に根を下ろした存在として、ホーチミン郊外で進むエコリゾート計画の一翼を担っている。

青葉やまと

フリーライター

1982年生まれ。大手メーカー系企業でのシステムエンジニア職を経て、2010年から文筆業に転身。IT・アートから国際政治・経済まで、幅広くニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『プレジデントオンライン』などに寄稿中。

青葉やまと

フリーライター

1982年生まれ。大手メーカー系企業でのシステムエンジニア職を経て、2010年から文筆業に転身。IT・アートから国際政治・経済まで、幅広くニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『プレジデントオンライン』などに寄稿中。