【卵形のホテル】「火星のような島」に虹が出現。島民自ら築き上げた200個のドーム施設

  • 文:青葉やまと
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イラン

 

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© Aga Khan Trust for Culture / Deed Studio (photographer)

荒涼とした島に佇む、虹色のカラフルなドーム群。イランのホルムズ島に建つ「マジャラ・レジデンス」は、土嚢を積み上げる伝統工法で地元住民自らが建設したホテル兼文化施設だ。エコツーリズムで島を再生させようという壮大な社会実験が評価され、2025年に権威ある建築賞を受賞した。

虹色のドーム群が島を彩る

ペルシャ湾とオマーン湾の間に横たわる、ホルムズ海峡。かつて海賊が出没し、今では世界屈指の石油輸送路として知られるこの海域に、イラン・ホルムズ島が浮かぶ。

在来植物は自生せず、飲み水はすべて本土から水道橋で引いてくるしかない。だが、この荒涼とした大地こそ、この島にしかない独特の美しさの源でもある。土壌に含まれる鉱物が砂を赤く染め、打ち寄せる青い波と鮮烈なコントラストを生み出す。

テヘランの建築事務所ZAVアーキテクツは、まるで火星のようなこの風景の中に、色鮮やかなドーム群を完成させた。海岸からわずか数メートル、岩山を背にして建つのは「マジャラ・レジデンス」と名付けられた施設だ。文化交流施設であり、ホテルでもある。

米インテリアデザイン誌のエル・デコによると、地元住民と訪問者をつなぐ拠点として構想されたこの建物群には、もう一つの使命がある。実はホルムズ島の主な収入源は、合法とは言い難い石油取引だ。建築家たちはこのプロジェクトを通じ、島に合法的な収入源を確立しようとしている。建築の力で、コミュニティの暮らしは変えられるのか。その問いに挑む壮大な社会実験が、赤い砂浜の上で静かに始まっている。

この複合施設は大小約200のドームで構成されている。その形は周囲の山々のリズムを繰り返し、また、島に古くからある貯水施設を思わせる。スペイン建築誌のメタロクスによると、色使いも島の風景から着想を得ており、岩山の赤、海の青、そして虹を思わせる多彩な色合いが選ばれたという。

敷地には門や柵などは設けられておらず、島を訪れる誰もが自由に出入りできる。曲がりくねった小道がドームの間を縫い、歩くうちに自然と次のエリアへ誘われる仕組みだ。敷地内には最大75名が快適な夜を過ごせる宿泊棟に、滞在しながらアート作品の制作に打ち込める10室のスタジオ、そしてレストラン、工芸品店、礼拝スペースが存在。公共の図書館まで備わる。

土嚢で築く伝統と革新

こうした色鮮やかなドーム群は、「スーパーアドベ(またはスーパーアドービ)」と呼ばれる工法で建てられている。メタロクス誌によると、地元で採取した土と砂に少量のセメントを混ぜて袋に詰め、それを何層にも積み上げて壁をつくるという。

材料費が安く済むが、その分、人手を要する工法でもある。本プロジェクトではこの特性が、かえって良い方向に働いた。島に雇用を生んだのだ。現場で訓練を受けた地元の人々が、一人一人の手でドームを築き上げていった。

建物の内装には、工夫が凝らされている。エル・デコ誌によると、室内にはあえて壁やドアを設けず、鮮やかに変化する色彩によってのみ、心理的に空間を区切っている。視界を遮るものがないため、流れるような動線が生まれた。

ボトムアップで島を再生

プロジェクトの起源は2008年に遡る。ホルムズ島は、世界の石油供給の5分の1が通過するホルムズ海峡に浮かぶ小島だ。その地政学的な重要性ゆえに周囲は安全とは言えず、6000人足らずの島民は漁業と密輸で何とか暮らしを立てていた。

建築情報サイトのアーキネットによると2008年、アリ・レズヴァニ氏率いるイラン人アーティスト集団が、島の色鮮やかな山や谷から採れる天然顔料を使い、「ソイル・カーペット」というランドアートイベントを立ち上げた。エコツーリズムで島を活性化しようという試みだった。しかし、まともな宿泊施設がなく、訪れるのは日帰り客やバックパッカーばかり。一時の賑わいにはなったが、期待した経済効果は得られなかった。

そこで彼らが頼ったのが、テヘランを拠点に活動する芸術プロデューサーのエフサーン・ラスールフ氏だった。ラスールフ氏はZAVアーキテクツをはじめ、さまざまな分野の専門家を集めてチームを結成。「プレゼンス・イン・ホルムズ」と名付けられたこの取り組みは、建築や都市計画分野への小さな働きかけを少しずつ重ね、地域コミュニティが自ら育っていける土壌をつくることを目指した。

計画の第2フェーズとして建設されたのが本「マジャラ」プロジェクトである。住居を中心に複数の機能を備えた複合施設で、島を訪れる人々と住民の暮らしを文化的・経済的に結びつける役割を担う。周辺国との政治的緊張が絶えないイランにあって、国家に頼らない新たなコミュニティ運営のあり方を建築を通じて模索する試みでもある。

建築賞が評価した変革力

こうした取り組みは国際的にも高く評価された。2021年に完成したマジャラ・レジデンスは、2023年から2025年までを費やして行われた選考で、権威あるアガ・カーン建築賞を受賞した。この賞は、イスラム諸国の発展を支援する国際機関アガ・カーン開発ネットワークが主催し、建築の美しさを審査するだけでなく、地域社会にもたらす変化を重視することで知られる。

土嚢を積み上げた虹色のドーム群が評価されたのは、過酷な環境にある小さな島の住民に、新たな暮らしの糧と文化的な誇りをもたらしたからだ。建築とは、形を与える行為であると同時に、未来を描く行為でもある。ホルムズ島に出現したこの風景は、その可能性を鮮やかに物語っている。

審査員は評価コメントの中で、このプロジェクトが地質、コミュニティの暮らし、そして観光という三つの要素が交わる場所に立っている、と高く評価した。観光産業は時に、地域社会を壊すほどのグローバル化の波を引き起こす。だが、数百万年かけて形作られた壮大な大地の中に建つこの建築群は、資源を大量に消費する超高級リゾートの形を選ばなかった。

代わりに目指したのは、多様な人々を受け入れ、地域と共に歩む開かれた枠組みだ。審査員はコメントを次のように締めくくっている。「文脈への深い感受性を通じて、このプロジェクトは建築というものが楽観と揺るぎない決意の力となり、社会・文化・物質の振り子を動かしうることを示している」

人々の好奇心を惹くカラフルな卵形建築には、地域が抱えてきた歴史的な課題と、それを断ち切る未来への希望が込められている。

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