中国
中国・河北省の農村部に、大地から浮き上がるような建築が現れた。設計事務所Buzz / Büro Ziyu Zhuangが手がけた公共空間「Manor Mirage(マナー・ミラージュ)」だ。使われないままこの地に放置されていたコンクリートの橋脚を改修し、広さ400㎡の文化施設として新たな命を吹き込んだ。
小麦畑に姿を現した「蜃気楼」
一面に広がる小麦畑の上に、まるで蜃気楼か雲のような塊が浮いている。ガラス張りのパブリックスペースを純白のスチール構造で囲んだ、ユニークな公共施設だ。昨年6月に完成した中国の公共施設、マナー・ミラージュ。このところ海外デザインサイトで取りあげられており、鉄製とは思えない軽やかなトーンで話題だ。
設計コンセプトは「蜃気楼」。遊牧民が訪れる草原の歴史的経緯を尊重しながら、既存の環境に最小限の手を加えることで、打ち捨てられていた橋を再生する——。その目標を達成するため、周囲の景観に圧迫感を放つことのないよう、設計チームはあえて蜃気楼というテーマを選んだ。
海外デザインサイトのデザインブームは、浮遊感に込められた秘密を伝えている。それによると、もともと敷地に残っていた橋脚が、野原と空が開放的に広がる風景の大きなノイズになっていたという。設計チームは廃墟とも言えるこの構造物を取り壊すこともできたが、再生の土台として活用することを選んだ。
橋が持つ隠しきれない重量感を覆ってごまかすのではなく、むしろそれを構造上の核に据え、宙に浮かぶ構造体を設計。大地を離れ宙へと持ち上げられた床に、軽量の屋根と外装が組み合わされ、軽快な印象の建物が完成した。コンクリートの存在感は薄れ、のどかな風景と調和する一本の水平線として、農村の風景に新たなアクセントを与えている。
村人の道は守られた
建築サイトのジディピは、軽量の屋根を載せることで、橋脚の強い圧迫感が取り除かれたと評価。建物は麦畑のうねりに沿うように水平に伸びる。光が変化し小麦の穂が揺らぐ中で、不思議な存在感を放つ。
建物を浮かせたことで、視覚的なインパクト以上の効果も生まれた。ジディピによると、もともと橋の下には、村人たちが慣れ親しんだ道が通っていたという。建築後も手つかずで保存されており、村人たちは愛着のあるこの道を今も使い続けている。
また、床スラブには微妙な高低差を付けた。両側に広がる小麦畑の起伏に呼応するよう設計されている。下部を通行できる空間を確保するためだが、結果として、建物内部からの景観がバラエティに富む利点が生まれた。ある場所からは野原の開けた景色を望むことができ、集会や遠景の眺望に適する。別の場所はより大地に近く、手を伸ばせば穂先に手が届きそうな感覚を覚えながら、格別のコーヒーブレイクを楽しむことができる。
建物は地域の人々の生活に彩りを加えると期待されている。世界的建築メディアのアーキ・デイリーは、内部にはクリエイティブな催しを開催できる展示スペースや、カフェ・軽食エリア、屋上テラスなど、複数の機能が統合されていると紹介している。
ファサードの狙いは「ピクセル化効果」
建物全体は、白い格子状の外殻で覆われている。デザインブームによると、設計チームはガラスと交差する金属フレームを設けることで、「ピクセル化」するファサードとした。建物本体と背景の自然が、格子状のブロックを通じて1ピクセルに混ざり合う。周囲との調和を象徴する視覚効果だ。
外壁から直線的な格子が突き出る奇抜なデザインだが、遠くから見るとまるで蜃気楼か雲のように柔らかな印象に変わる。重厚なヴォリュームの印象は消え去り、透明感のあるグラデーション構造へと昇華する。日差しの角度が変われば、大地に落ちる格子の影の密度も変化。風に揺られる小麦の穂と相まって、まるで草原の上で揺らめくような、独特の視覚効果をもたらす。
夜になりライトが灯ると、純白の格子構造が室内からの光を複雑に反射し、柔らかな光の塊となって別の表情を見せる。すっかり暗くなった小麦畑に静かに佇むこの灯りは、控えめながらも確かに人里の温もりを感じさせる。
奇抜さばかりに意識が行きがちな文化施設だが、計算し尽くされた視覚効果が随所に込められている。
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