美術学校の入学を許可されず、社会的制約も多かった女性画家。時代の感性を絵筆に込めて才能を開花させた5人について、美術史家の池上英洋にその魅力やストーリーを聞いた。
印象派はなぜ生まれた?19世紀中頃は、中産市民階級が台頭し、人々の楽しい“日常”が街にあふれ出した時代。画家たちはそんな暮らしを題材とし新たな絵画として「印象派」を生み出した。そこからは現代の暮らしにも通じるテーマ性も垣間見える。当時の社会を紐解きながら、現代の視点で読み解いた、新たな印象派の魅力がここにある。
『自由な視点、その創造性――印象派を読み解く』
Pen 2026年2月号
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ベルト・モリゾ |マネのモデルも務めた、印象派女性画家の先駆け
© Archives Charmet/Bridgeman/amanaimages
「モリゾは姉とともに幼い頃から絵画を学び、コローに師事しました。当時女性は花嫁修業に絵画を嗜む者も多く、姉は結婚を機に画家の道を断念します」。モリゾはマネと出会って彼のモデルも務め印象派グループとの交流を始めると、第1回印象派展に唯一の女性として参加。「マネの弟ウジェーヌと結婚後は夫の支えもあり、結婚・出産後も制作を続けました」。娘の成長を描いた作品群は母親の優しさに満ちている。
1881年 油彩、カンヴァス 73×92cm マルモッタン・モネ美術館蔵
夫と一人娘のジュリーを描いた1枚。やわらかい色彩と躍動感のある筆触で描いた代表作。
© Bridgeman/amanaimages
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メアリー・カサット|印象派をアメリカへ広めた、キーパーソン
© Alamy/amanaimages
アメリカ人のカサットはパリで絵画を学ぶために渡仏。当時公立の美術学校では女性の入学が許されなかったため、ジャン゠レオン・ジェロームの私塾で学んだ。「女性画家として初のサロン入選を果たしますが、ドガに傾倒して第4回印象派展から第5、6、8回まで参加します。パリで成功を収めたカサットはアメリカ人の蒐集家への助言を行うなど、彼の地が後年アートの中心に移行する立役者となった女性です」
1878年 油彩、カンヴァス 89.5×129.8cm ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵
正統派画家のカサットはパリで印象派の影響を受けた。本作はドガの影響が表れている。
© Bridgeman/amanaimages
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エヴァ・ゴンザレス|スペインにルーツを持つ、マネ唯一の弟子
© Alamy /amanaimages
スペイン系の美貌を備えたエヴァ・ゴンザレスは、シャルル・シャプランが開いた女性のための絵画教室で絵を学ぶ。「マネと出会ってからはモデルをし、唯一の弟子と認められたため、それまでマネのモデルだったモリゾにとってはライバル出現となりました」。サロンを重視した師に倣い、自らも印象派展に出展することはなかったが、その作風には印象派的な要素が見受けられる。マネの死の6日後に34歳で死去した。
1874年頃 油彩、カンヴァス 97.7×130cm オルセー美術館蔵
当時、上流階級の女性が着飾って出かけられる唯一の場所だった劇場での一場面を描いた。
© GrandPalaisRmn (musée d'Orsay)/AMF/amanaimages
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マリー・ブラックモン|夫の嫉妬で筆を折った、“知られざる” 才媛
© Alamy/アフロ
「印象派を代表する女性画家マリー・ブラックモンは、モリゾ、カサットのように裕福な家の出身ではありませんが、アングルに評価され、度々サロンに入選します」。ジャポニスムの牽引者だったフェリックスと結婚すると印象派に傾倒し、モネやドガ、ゴーギャンからアドバイスを受ける。「妻の才能に嫉妬した夫の冷淡な態度に耐えられず、マリーは画家を断念します。女性は複雑な状況に置かれていたのです」
1880年 油彩、カンヴァス 88×105cm プチ・パレ美術館蔵
中央に描かれたのは画家のファンタン゠ラトゥール。やわらかい日差しを感じる繊細な筆触。
© Alamy /amanaimages
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シュザンヌ・ヴァラドン|印象派のミューズから画家、そしてユトリロの母に
© Centre Pompidou, MNAM-CCI Bibliothèque Kandinsky, Dist. GrandPalaisRmn/AMF/amanaimages
父親は不明、母親は貧しい洗濯婦だったヴァラドンは肉感的な美しさを武器に、絵画モデルとして働くようになる。「独学で制作を続けドガに師事すると、画家としての道を歩むようになります。当時画家を目指す女性の環境は厳しく、才能があっても途中で挫折した人が多い中、ヴァラドンは男性の裸体を堂々と描いた最初の女性画家のひとりでした。息子のユトリロもエコール・ド・パリを代表する画家になりました」
1909年 油彩、カンヴァス 162×131cm ポンピドゥーセンター/パリ国立近代美術館蔵
女性がヌードを描くのがタブーとされていた時代に、先進的な試みを行った作品。
© Centre Pompidou, MNAM-CCI, Dist. GrandPalaisRmn/AMF/amanaimages
池上英洋
美術史家。東京藝術大学卒業、同大学院修士課程修了。東京造形大学教授。イタリアを中心とした西洋美術史・文化史を専攻。著書に『レオナルド・ダ・ヴィンチ─ 生涯と芸術のすべて』『西洋美術史入門』『教養としての「印象派」見るだけノート』ほか多数。
